「今日はもう休もう」 そう言って、レイはグロウの手をとった。 扉の手前でグロウはもう一度、振り返って地球を見た。それから、レイに引かれるままに、螺旋階段を降りていった。 「ぼくは隣の部屋で眠るから、グロウはベットを使って」 「わかった」 頷いてベットへ近づいたグロウは、あっと声をあげた。 「レイ、うさぎが!」 丁度、部屋を出ようとしていたレイは、グロウの小さな悲鳴に「ふふふ」っと笑った。 「そいつは、月うさぎのルナ」 布団の中から顔だけ出しているルナの鼻先を、レイは軽く撫でた。 「とても寂しがり屋さんなんだ。一緒に寝てあげると、喜ぶ」 金色の毛並みを揺らしながら、ルナはグロウの手に鼻先をちょこんとあてた。 「よろしく、ルナ」 グロウに頭を撫でてもらい、嬉しそうにルナは目を細めた。 「一緒に寝よう、ルナ。おやすみなさい、レイ」 ルナを抱きかかえて、グロウは横になった。 「おやすみ、グロウ。おやすみ、ルナ」 静かにドアを閉めようとした時、グロウの声が追いかけてきた。 「レイ、明日散歩につれて行ってくれない?」 「いいよ。だからもう、お休み」 返事はなく、代わりに穏やかな寝息が聞こえてきた。 レイは眠る前に、グロウのことを考えていた。 彼が人間だったのか、何者なのか、わからずじまいであった。 それより、グロウなんて名前をつけて、ぼくは一体どうしようというのだろう。 ずっと一人で暮らしてきた。 誰かと一緒にいることが、こんなにも楽しいなんて……。 そこでレイの思考は途絶え、重いまぶたを閉じて、眠りに入ったのだった。 レイは、外から聞こえる笑い声で、目を覚ました。 寝ぼけまなこをこすりながら、窓から顔を出すと、グロウが月うさぎたちと遊んでいた。 ぴょんぴょん飛び跳ねる月うさぎたちを、グロウが追いかける。グロウが動く度に、月面に生えている草が、一斉に光る胞子をとばしている。 淡く明滅する胞子は、ゆっくり浮遊しながら上昇し、グロウたちを見守るかのように、月面を照らしている。 「レイ!起きた?散歩に行こう!」 窓からぼうっと眺めていたレイは、グロウがすぐ近くまで来ていたことに気がつかなかった。 グロウの腕の中で、ルナがヒゲをそよがせている。 「とても賑やかになったね、銀河ラボも」 レイは、ルナのくりくりした真っ黒な瞳に、本当に小さな声で呟いた。 「さて、行こうか。舟に乗るよ」
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