ボクオーン
その1

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

ボクオーン                ボクオーンとは日本国認定の生活保護者である水野正孝のハンドルネームである。どこまでも愚かでがめつい寄生虫である。彼は生活保護を受けながら、なおかつ障害者年金までもかすめ取ろうとしている、あくどい毒虫である。彼は支給される額が足りないと言っていつも日本国に文句を言っている。彼の受取った金はいつも風俗とパチンコに消えるからである。俺をホームレスにする気かと言っていつも怒っている、徹底した屑である。だがそんな屑でも日本国は生かしてやっている。これは全くの無駄金である。死んでいい人間がいるとしたらまさに彼こそそうだろう。病気から来るにしても彼の愚かしさは並大抵ではない。その愚かしさを治せる医者はこの世に一人もいない。彼は重い病人のふりをするが病気の程度はそれほどでもない。むしろ複数の病状が根底にある性格異常者と言った方が正しいのかもしれない。彼は金が入るとさっそく安いソープへ行く。彼の発射したスペルマは年増のソープ嬢の膣からあふれ出し東京の下水道を流れていく。彼のスペルマに受精させようとする女はこの世に一人もいない。彼の生活は愚かしさここに極まれりと言っていいほど無残である。彼の口から出る言葉は不特定多数の「女」と受給された「金」である。それ以外、彼の頭の中には何もない。 「先生、このところ、いつにもまして具合が悪いんです。とても働けません。障害者年金受取れませんかね。生活保護費じゃ足りないんです。僕にはお金が必要なんです。当然の権利と思いますけどね」 「君は生活保護費で食べていくことを考えなくちゃならない。君は確かに躁うつ病患者だが障害者年金を出すほどじゃない。君が手にするお金はみんな税金から出ているんだよ。大事に感謝して使う必要があると思うよ」 「先生、何を言っているんですか、生活保護費と障害者年金は全く種類の違うものなんですよ。僕は一日生きていくことさえ息も絶え絶えなんです。他の医者は重度の統合失調症だと言ってました。僕は躁うつ病患者であると同時に統合失調症なんです。生きていくことが困難だ。先生は僕に死ねというのですか」 「君は作業所からでも働けると思いますよ。そこで得られるお金は僅かかもしれませんが、生活保護費と足せば生きていけるでしょう」 「先生、作業所がどんなところか知っていますか。あそこは本当の気違いが集まってくる場所だ。あんなところに行ったら気が狂ってしまいますよ。おまけに時給が桁外れに安い。あんなの労働じゃありませんよ。あれこそブラックだ」 「とにかく私のところでは君を障害者年金の受給者として認定することはできません」  ボクオーンは腹が立っていた、藪医者め、どこに目をつけているんだ。俺様が障害者だということが分からないのか。医者なら一目みて俺が天下の障害者様だと分からなきゃな。くだらねぇ、次だ次!  彼は頭がカッカカッカしてぶち切れそうだった。  俺様の生活保護費こそこの世で最も有意義に使われている。俺様が生きているからお前らは生きていけるんじゃないか。ふん、何も精神科医どもの詐欺師連中だけを言っているんじゃないぞ。俺様の存在は世の中の要だ。俺がいるからこそ人は空気を吸い、おいしいものを食べ、SEXが出来るんじゃないか。感謝しろ! 糞どもめ! 俺様は神様より偉いんだ。    彼の生活保護費は月に十三万円だった。節約すれば今はやりのワーキングプアよりも楽な生活ができるはずである。医療費はタダだし、バス乗り放題だし、都内のいいところへ優先して安い家賃で入居できる。だが彼にはそれだけじゃ足りなかった。三十代の若い体は女を欲した。ばばあばかりじゃなく、若くていい女を抱きたい。二十歳そこそこの膣に精子をぶちまけたい。彼の欲求は際限なかった。だから日本国が障害者年金を出さないのが腹に据えかねていた。あれが入ればもっといいものを食べてもっといい女を抱けるんだ。  どうにも頭が怒りで収まらないのでパチンコ屋へ入った。  すごい騒音だ。このジャラジャラした音は俺を狂気にいざなう。こいつらみんな殺してやろうか。血が見たいんだよ! 彼は一つの台に座った。一万円を入れた。しかしそれは十分たらずで終わった。彼の怒りは頂点に達し、刃物があれば確実に隣のハゲ親父を刺していたところだろう。彼はそのハゲ頭にボールペンで「バカ!」と書いた。親父は驚くと同時に怒り狂って彼に殴りかかっていった。だが足がもつれたところを蹴られてひっくり返った。 「クソ親父、死ね!」  彼は捨て台詞を残してその場を立ち去った。  人生とは(壮大な?)暇つぶしである。用もないのに生まれ、死にたくないから生きているのが真相である。生まれたら何が何でも生きようという生存本能によって自殺しないのである。それは細菌に始まって虫や動物に至るまで共通である。人間のみが自殺する。だが自殺による死とは生存本能の裏返しである。生存本能が著しく傷ついたとき人は自殺する。死のみを願って自殺する人は少数である。人は八十年足らずの人生を実は暇つぶし以外の何物でもないと理解している。スポーツ競技や一般社会の無意味な競争は暇を持て余すのが怖いから空虚を埋めようとして盛んに行われている。百メートルを九秒で走ろうと六秒で走ろうとどうでもいいことである。マラソンで一時間を切ったとしてもどうでもいいことである。球を足で蹴って枠の中に入れてもどうでもいいことである。投げられた球を木の棒で打って柵を越えようとどうでもいいことである。氷上で跳んだりはねたり回転しても無駄である。こうしたことは全てゲーム(遊び)である。つまり人は暇をつぶすためにこうした競技を編み出した。今現在スポーツが盛んなのは平和だからである。平和な時には人はやることがない。相当な時間が余って暇つぶしにスポーツとやらをやる。スポーツ競技全体に言えることだが記録が今より飛躍的に伸びても実はどうでもいいことである。金メダルを手にした選手が称賛されるのはいかに効率的に暇をつぶせたかという一点に過ぎない。だからオリンピックは壮大な無駄である。それこそ壮大な暇つぶしである。誰もが自分が何のために生きているか本当のところは理解していない。その根底に暇つぶしがあるのが人間の本質である。会社に入り社長や重役を目指すのも無駄である。汗水流してろくに眠ることもしないで働いて出世したところで、もう人生の末路に来ている。後は死ぬだけである。子供を産んで育てるというのも無駄である。暇を持て余すのが嫌だから子供を育てるという無意味な行為に没頭する。実のところ子供が生きようか死のうがどうでもいいことである。望まれて生まれる子供は稀である。子供の誕生は親にははた迷惑なことである。大抵はSEXに没頭した結果、子供が生まれてしまったというのが真相である。勝手に生まれた子供が悪い。人間は現実というのは強固な存在だと理解している。その場所でしゃにむに生きなければならないと思っている。だがボクオーンは誰もが現実という架空の幻想の中で揺らめいている幻影だと理解していた。過去や未来に限らず、現在でさえも実在しているものとは考えなかった。だから現実というものを徹底的に馬鹿にしてかかっている。ただ自分だけが「王国」という絶対的な永遠の光の園を生きていると思っていた。  ボクオーンの活躍できる夜中が来た。実際はそこでも嫌われているのだが気づく様子もない。減らず口をたたくのでボクオーンの敵は多い。ある自殺サイトの集まりが開かれる。 《ボクオーン》 「作業所でね、Aが僕に刃物を持って襲い掛かってくるんだよ、どうしたらいいんですかね。もう少しで殺されるところだった、ああ、怖かった。ほんまもんの気違いがいるんですよ、なんで雇ったのかな、ふつう洒落で終わるところでしょ」  彼は作業所などたまにしか行っていない。遊び狂って夜中には同じ種類の馬鹿連中とチャットをするのが何よりの喜びだ。 《ダイ》 「君が挑発したんじゃないか?」 《ボクオーン》 「え? 僕は態度が悪いのを注意しただけですよ。ミスが多いんですよ。それでも自分が悪いと思っていない。評価は他人様から頂くものであってね、自分で自分を評価しちゃいけないよ。あいつはみんなから嫌われているんだ、思い知らせてやらなきゃ。どうですかね」 《ダイ》 「みんなって誰のこと? 君はみんなに確かめてから言っているのかい? 一人ひとり確かめてみたの? そういう卑怯な上から目線は止めた方がいいな。今じゃパワハラっていう言葉もある。人の評価なんて曖昧ないい加減なものだ。自分の評価は自分自身ですればそれでいいんだよ」 《ボクオーン》 「何を言っているの? それじゃ社会を生きていけないよ。社会に出たら人の評価こそ絶対的なものなんだ。ダイさんはいい年して引きこもっているからそういう考え方をするんだ。やっぱりAにはこの社会のルールを教えてやらなきゃいけないな。どうですかね」 《ダイ》 「君の自己評価はどのくらいなんだ?」 《ボクオーン》 「僕の自己評価は空よりも高く海よりも深い。人からの評価も絶大なものがある」 《ダイ》 「君の妄想だろう、それ(笑)。Aだって注意されれば腹の立つときもある」 《ボクオーン》 「え? まっとうな大人はそこをグッと我慢するんじゃないですかね。そいつはそれからというもの僕をいつも睨み付けている。いくら人のいい僕でも嫌になりますよ。訴えようかな。どうですかね」 《ダイ》 「その人は刃物をいつも持ち歩いているの?」 《ボクオーン》 「そうなんですよ。ああ、怖かった。僕が死んだらこの世が立ち行かなることをわかってないんだから。世界の心臓を刺すようなもんなんですよ」 《ダイ》 「えっ、なにそれ、言っている意味が分からないな」 《ボクオーン》 「いやこっちのことで。とにかくああいう危険人物は作業所に置いといちゃいけませんよ。作業所の名誉に関わることですよね。ただでさえ作業所には気違いが来ていると世間から思われている。僕がいることで作業所の評判を変えたいんだ。それにね、糞みたいに安い賃金を値上げさせたいんだ。いいこと言うでしょう、僕は。このチャットでも僕のこと、もっと大切に扱ってほしいんだけどね」 《荒らし》 「ボクオーン死ね、ボクオーン死ね、ボクオーン死ね、ボクオーン死ね、ボクオーン死ね、ボクオーン死ね、ボクオーン死ね」 《ボクオーン》 「また荒らしが来た。よっぽど僕のこと好きなんだなぁ。まぁ無視していきましょう」 《ダイ》 「その人も虫の居どころが悪かったんじゃないか。みんな病人だからね。助け合ってやらなきゃね」 《ボクオーン》 「分かってないな。この糞のような世の中に一点、光を放つのが僕なんだよ。人生は苦だ。お釈迦様も言っている。この苦しみから救うのが僕じゃないですか。そうですよね」 《ダイ》 ダイはボクオーンと話すといつも具合が悪くなる。この日もうんざりして頭が重くなった。気違いと話すのは地獄だ、彼はそう思った。ダイは嫌気がさしてチャットから落ちた。 《ボクオーン》 「あれ、落ちた。逃げ足が速いやつだ」  ボクオーンは作業所で働く人間を軽蔑していた。どうしようもない愚か者だと思った。作業所で働くなんて自分が障害者だということを公言しているようなもんじゃないか。あんな単純労働で満足できるような人間ではないと彼は思っていた。障害者年金をもらったほうが何倍も楽して稼げる。何しろ働かなくていいんだからな、けけけっ。来週は生活保護の受給日だ。今日からは焼き鳥とビールと焼酎だな。宴会だ、宴会! 俺のために働け、世の愚民どもよ。俺に生活費をよこせ。もっと、もっとだ。俺のために汗水流して働け。  生活保護費の入ったボクオーンはさっそく吉原のソープへ行った。総額で二万の低価格帯のソープだ。彼は写真と実際の顔が違うパネマジというやり方に腹を立てていた。しかし露骨に顔に出すほど愚かではない。ソープ店のバックには怖い暴力団が控えているからな。ソープでは大人しくしていなければならない。彼は写真と違う年増のばばあ嬢の前でさっさと服を脱いだ。ばばあ嬢は彼の陰茎を加えフェラチオをした。この時、舌で舐めずに唇で済まそうとするソープ嬢がいることに気づいていた。舌で舐めなきゃ気持ちよくならないだろう。この売女め!  彼は何千回、何万回、使い込まれたであろう娼婦の膣に自分の陰茎を沈めた。緩い、太平洋の中で芋洗っているようなもんだ、と思った。まあ、緩くない女なんかいないけどね、彼は経験から学んでいた。どんなに顔がきれいでも若くても女の性器は、臭い、きたない、気持ち悪い、危険の4Kだと思っていた。危険というのは、用もないのにガキを孕むからだ。ガキはいらぬ。この世からガキを放逐すれば、このろくでもない世界は滅びる。  ボクオーンがこの世ですることは何もなかった。また出来ることも何もなかった。生きる必要のない人間とはまさに彼の代名詞であった。だが彼はいつか大それたことをやると思っていた。それが何かは今のところ彼自身にもわからない。彼の最大の欠点は今まで本気で自殺しようと思わなかったことだ。自殺するくらいなら人を殺すと彼は放言していた。彼は自分が生きることが世界中の全ての人間の生命より重要だと思っていた。自分の生のためなら人をなんなく殺す人間だと彼は自認していた。彼が今まで殺人を犯さなかったのは偶然以外の何物でもない。彼は容易に殺人者になれただろう。それを拒む内的外的要因は何もなかった。殺人を犯せば自由が束縛されるだろうとは漠然と思っていた。でも今の糞のような自由にも彼はいい加減飽きていた。彼のようなゴミみたいな人間が自由でいることは実は危険である。ゴミはきちんと回収されるべきだ。だが三十代の彼が回収されるにはまだ数十年かかるのかもしれない。  ボクオーンは今日も金がなくてピイピイしていた。金が欲しい、強盗でもしたい。だが強盗が割に合わない商売だということは少なくとも理解していた。強盗殺人でもやらかしたら、えらいことになるのは頭の中では分かっていた。しかし人を殺すのに全く抵抗がなかった。牛や豚と同じよ、食われないだけましだろうって思っていた。他人が死ぬことに全く心が動かなかった。だって俺じゃないもん、人がいくら死のうと俺の知ったことじゃないと思っていた。他人は容易に死ぬけれど、俺はなかなか死なない。生活保護という特権を生かして立派な寄生者として長生きしようと思っていた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません