夜の月子
シーン4(最終話)

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南雲さんは私が来るなりリビングでこう言った。 「今夜は挿入させて欲しい、その代わりいつもより多くお支払致します」 死ぬほど嫌だったが、いつかはこうなるとも思っていた。 その分大金をもらえる。 私もズルくて汚ない女だった。 婚約者とは何時会っているのか。 前の日の昼間会ってそして深夜に私とも会っているのでは。 色んな思いが渦巻いていた。 南雲さんはベッドの上でズボンのチャックを下ろし、太いぺニスを出し、そして後ろから入れてきた。 私は仕事姿のヌードのまま四つん這いになりその太さ固さに堪えた。 「中には出さないので大丈夫です」 一通り私の膣中の感触を楽しむと南雲さんは私の体液で濡れたぺニスを抜き取り純白のシーツの上に射精した。 私もすっかり感じて朦朧としていたが、彼に手や口で処理してもらう気はなく、感度が高まった熱を帯びた身体のまま服を着た。 「お疲れ様でした、どうぞお受け取りください」 それはいつになく分厚い茶封筒だった。 「これからも今日みたいな事はあるのですか」 私は彼に尋ねた。 「その場合も…あるかも。勿論その対価はお支払致します」 「婚約者の人だけでは満足しないのですね」 「………」 私は何を言っているのか、自分だって彼の不貞に付き合っているではないか。 「すいません…」 私は下を向いて謝り、そして帰った。 冬になってもコロナ禍は衰える処か更に全世界で猛威を振るい、年末にかけて感染者の増加は避けられそうになかった。 その日も木曜日で私はお風呂に入ろうとしていた。 パソコンに向かっている彼の方を向いて私はある提案をした。 「ねえ、今日は一緒に入らない?」 彼は驚いてパソコン画面から目を離して私を見た。 「へえ?……マジで?」 「たまには入ろうよ」 「ツッキーの裸見たらしたくなっちゃうかもよ……」 「してもいいよ、中でする?」 「マジ……?!」 私はそう言うとその場で服を脱ぎ去り、南雲さんのアトリエにいるかのようなヌードになった。 彼はベッドの上で正座して丸い目で私のヌードを眺めていた。 「すごい可愛くてきれいな身体だ。服の下はそうなっていたのか」 彼は舐めるように私の頭のてっぺんから足の先まで見て感想を述べた。 「ウフフフッ」 「でも……胸はないな」 「クスッ。ねっ、入ろう」 彼も着ているものを脱いだ。 私は彼の手を取り、バスルームへ入った。 私たちは身体の洗いっこをした。 彼は私の背中を流しながら 「ツッキーの背中スベスベだ。気持ちいい」 とお褒めの言葉をくれた。 更に私の胸と下半身も洗ってくれた。 彼の洗い方は優しくてくすぐったくて気持ち良かった。 私も彼の身体を洗ってあげた。 特にぺニスは泡をたっぷりつけて念入りに洗ってあげた。 するとムクムクとぺニスが大きくなった。 「やべえ……」 彼は照れていた。 でも彼は私とセックスはしなかった。 私のも見せてあげようとした。 丸出しの彼のものを一方的に見たままでは申し訳ないと思ったのだが、彼は「いいよ」と遠慮した。 それでも私は半ば強引に見せた。 「へえ、女の性器ってこうなっているのか」 私は自分のヴァギナを彼に触らせてあげた。 彼は指で小陰唇の辺りを撫でた。 そのまま指を中に入れてくれても構わなかったが彼はしなかった。 とても楽しいひとときだった。 そしてこれが彼との最初で最後の入浴となった。 そしてその夜、南雲さんの家のリビングで思いもよらない話を聞く事になった。 「突然で申し訳ないのですが、今夜で雇用契約の解除をさせて頂きます。その代わり退職金と言うことでいつもの給与の他に3回分のお支払をさせていただきます…」 本当に突然の通告に私は全く納得いかなかった。 しかし雇用主がそう言うのなら雇われの身の私としてはもうしょうがない。 不当解雇を訴えて裁判を起こす気にもなれなかった。 「分かりました…今夜が最後ですね?」 「……本当に申し訳ない」 「解雇理由は何ですか?」 「すいません…ちょっと言えません…」 おそらく彼は私の身体に飽きてしまったのだろう。 私は無茶苦茶頭に来た。 このまま何もせず帰ってやろうか。 しかし結局私はその最後の夜も普段通りの仕事をした。 いつものペッティングとセックスはなかった。 最後に服を着るよう言われて、そして私は椅子に座って着衣のポートレートを描いてもらった。 仕事が終わり、私はその日の給与と退職金の札束の入った封筒を鞄に詰めた。 「ねえ、これもらっていってよ」 そう言って南雲さんは先程描いたばかりの私のポートレートの描かれた紙を丸めて渡そうとした。 「要りません」 私はきっと睨み付けて彼の好意を拒絶した。 そして私は無言で玄関を出た。 南雲さんも最後は何も言葉を発することはなかった。 帰りのタクシーの後部座席で私は重たい空しさに堪えていた。 これでまた私は何の肩書きもない女の子に戻ってしまった。 退職金がだから何なのか。 「……本当に何なのよっ!……」 悔しさを滲ませたまま、帰路に着き、用意されていた朝御飯も食べずにそのまま寝袋で寝てしまった。 そしてその翌日同居人の彼は逮捕された。 罪状は道路交通法違反と迷惑防止条例違反だった。 何でも彼は渋谷の交差点で寝そべり、その行為の一部始終を定点カメラで撮影してYouTubeにアップしてたとの事。 必然かのように彼の行為は警察にバレた。 YouTuberもしていたとは。 何でももっと私たち2人の生活を良くしようとアクセス数を稼ぎたかったとの事。 そんなことしなくてもお金なら有り余っている。 いつでも言ってくれれば喜んで渡したのに。 でももう遅かった。 そしてこの間の暴力行為も発覚し、それでも彼は立件された。 あの男性はその後病院に運ばれ、何日も昏睡状態となり、そして先日亡くなったそうだ。 だから保釈金を払おうにもそれは出来なかったのだ。 私は拘置所の面会室で彼と久しぶりに会った。 彼は複雑そうな何ともいえない表情をしていた。 そして少し痩せていた。 私は彼に何か言いたいのだが、肝心のその言葉が出てこない。 「…何で、そんな馬鹿なことしたのよっ…」 やっと出てきたのはその台詞だった。 彼は照れたような顔で「ごめん」と一言呟いた。 私は正直泣きたかった。 そして彼の名前を叫びたかった。 「…………」 そういえば私は彼の名前を知らない。 あれだけ一緒に住んでお世話になっていながら名前も年齢も知らないとは何なのだろう。 私は大馬鹿だ。 「………う…………」 私は泣いていた。 そのあとも下を向いてずっと泣いていたので彼がどういう顔をしていたのか分からなかった。 「今までありがとっ……うっ……」 下を向いたまま私はボロボロ涙を流して硝子板の向こうの彼にお礼を言った。 最後に彼は大きな声で「ごめんなさい」と私に謝った。 私は拘置所を出た。 突然の別れだった。 そんな私は彼を完全に理解できていなかったのだ。 でも私にとって彼は大事な人生の恩人には違いない。 いつかきっと迎えに行こう。 彼の名前は「蓮田陽」だと後でニュースの記事で知った。 年齢は私よりひとつ上の20歳。 「太陽」と「月」か。 道理でお似合いだった訳だ。 彼と一緒に生活した日々を私は一生忘れないだろう。 私も住んでいた彼のアパートを追い出された。 私は途方にくれる余裕もなく荷物を抱えて歩いていた。 お金はあるが身も心もないようなものだった。 何処かのホテルとか暫く滞在する事もできた。 インターネットカフェでもいい。 しかし私はもう誰の顔も見たくなかった。 親の所も行く気はなかった。 戻れば彼らに屈服したようなものだ、この一年の頑張りは何だったのか。 私は何時間も歩き続けた。 このまま歩き疲れて死んでもいいくらいだった。 気づくと見覚えのある住宅街を私は歩いていた。 そう、そこは南雲さんの住んでいる街だった。 そして私は彼の家へと向かっていた。 駐車中の車の陰に隠れながら私は南雲さんとその婚約者らしき人が玄関から出ていくのを目撃した。 既に2人は一緒に住んでいる様だった。 彼としては私はとっくにお呼びのない人なのだろう。 それから私はその街を離れた。 夜も更け、それでも歩き続けたが流石にもう足は動かなかった。 何とか広い公園にたどり着き、私はベンチでひと晩過ごすことに決めた。 上には屋根があるから雨が降っても大丈夫だ。 疲れきってこの先の事はもう考えることは出来なかった。 それよりとりあえず身体を休めたい。 ベンチは冷たかった、でもしょうがない。 私は寝ることにした。 辺りは真っ暗で無音だった。 そして次第にウトウトしてきた。 すると空から白いものが降ってきたのが微かに視界に入った。 (……きれい……だな………) それが私が見た最期の光景だった。 翌日の早朝、園内をジョギングしていた男性がベンチで冷たくなっている私に気づいた。 彼は警察に通報し、辺りはパトカーや救急車、他のジョガーや通勤途中の人も加わり騒然となった。 私の死に顔は雪のように真っ白でぐっすりと熟睡しているようだった。 そしてその冬、私は19年という短い生涯を終えた。 ●○●○●○●○●○●○●○●○● そんな夢を見た。 私を起こしたジョギングウェアの男性は私がてっきり死んでいると思い、すごい剣幕だったが生きてると分かるとほっと肩を撫で下ろした。 私は起き上がりベンチの上で伸びをした。 薄明かりの朝日が眩しい。 チュンチュンという雀の鳴き声も目覚ましにみたいに聞こえた。 雪は昨日の夜少し降っただけのようだ、地面は濡れてない。 ジョギングウェアの男性は私をコンビニに連れていき、イートインスペースで朝御飯をご馳走してくれた。 私はお金を払うと言ったが、男性は何かの縁だと思う、だから今日は奢らせてくれと笑いながらサンドイッチを頬張った。 私はありがたく熱いコーヒーとタマゴサンドを頂きながら何度も頭を下げた。 そして私は今の自身の置かれた境遇を彼に打ち明けた。 「何かできることってある?」 男性がそう聞いてきたので私はヌードモデルのアルバイトをしていた事を話した。 その告白がきっかけでそのあと色々あったのだが、私はなんと後に本当にプロのヌードモデルとして活躍することになったのだ。 そしてどこかで評判になったのか、私は公的私的な美大や絵画教室を問わず引く手数多な存在となっていった。 どうということない私のその身体がかえってヌードモデルとして相応しかったようだ。 それから私は若くしてヌードモデルとして成功した。 そしてちょっぴり世間で有名にもなった。 でもその話はまた別の機会に。 と言うことで私は元気です。 じゃあね。