麻倉日記
2、お兄ちゃん

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二人目は、お兄ちゃんの事を書こうと思う。私は兄と二人兄妹なので、二人で育ってきたのだが、この兄、なかなかに曲者である。 どこが、というと、そうだな、まず、言うことがコロコロ変わる。ワールドカップを観た次の日には、 「俺、サッカー選手になるわ」 と家のクッションでエアサッカーを始める。当然のように私も付き合わされて、私はその日からゴールキーパーになる。 かと思えば、次の日には、歌番組を見て、 「俺、ラッパーになるわ」 と下手くそなビートをきざんでたりする。 backnumberというバンドのライブに行ってきた帰りには、 「・・・・・・俺さ、曲が全部分かったんだよね。あのバンド、入れるかもしれない」 と神妙な面持ちで言ってきたこともあった。 ここまで読んだら分かったと思うが、兄はちょっと、いや、かなり影響を受けやすいのである。こんな兄と、阿呆な母である。ある日、塾から帰ったら、家がミュージカルと化していた。びっくりしてテレビを見た。「魔法にかけられて」が地上波していた。好き勝手歌う母と兄に私も、もちろん参戦して歌った。のちに騒音の苦情の紙がマンションに張り出されていたが、うちの事じゃないと思いたい。 こんな兄だが、私は彼にかなり面倒を見てもらったと思う。 父があまり、子育て上手という感じではない人なので、私は代わりに兄に叱られて、時に褒められて、時に一緒に遊んで育った。 そうやって育った私はすっかりお兄ちゃん子になった。 父よりも兄が好き。それは、私にとっての当たり前であったし、今もそうだ。(こう言うと、父が泣いてしまいそうだから弁解しておくが、私は父の事ももちろん好きだ) 母が仕事で家を空ける時はよく二人で留守番をした。兄が料理を作ってくれて、私が食器を洗う。洗濯は二人で。たった二人だって私は楽しかった。それはひとえに兄が好きだったからだと思う。 兄は何でもそつなくこなす人だった。料理一つとっても、私はオタオタして時間がかかるのに対し、兄はスルスルと何でも作ってみせた。 そんな兄が、私は自慢でもあり、コンプレックスでもあった。私は兄より、できる人を見たことがない。賢くて、処理能力も高く、話すのも上手で、人当たりもいい。 私は兄にいつも勝てなかった。 でも、それはいい。私は私。兄は兄だ。どうにか勝とうと躍起になったり、どうしても勝てないと嘆いたりもしたが、今はそんな風に思えるようになった。 私の事をいつもあんじてくれる、そんな兄が私は大好きだ。

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