1 「それで、ジイジは今、どこにいるの?」 紗亜莉は、周囲を見渡す。 声はするものの、姿が見えない。 〈お前の部屋だよ〉 「えっ? 私の部屋?」 〈ああ、『超感覚的知覚』のような霊技で話しているんだよ〉 「イー・エス・ピー? それって……もしかして、精神感応のこと?」 〈ああ、そうだ。まあ、詳しく言うとテレパシィも『E・S・P』の一種なのだが、霊技のひとつであるこの能力を、はたして、単純にテレパシィと呼んでいいものなのか……、現時点ではまだ何ともいえない。そこでワタシは敢えてこれを、『コミュニケーション・アクセス・ライン・オブ・ハート・アンド・マインド』とでも名づけることにする!〉 「…………? あえて、わざわざそんなに長くしないで、単純にテレパシィでいいんじゃないの……?」 〈ううぅ、それはそうなのだが……〉 「そうでしょ」 〈しかし……、テレパシィは単に言葉を発せずに離れた者同士で行うイメージ伝達のような能力なのだが、それとは何処かニュアンスも、感覚も違うような気がするんだよ。だから、はっきりわかるまでは、それとこれとを、区別する意味でも名称は変えるべきだと思うんだよ〉 「そうなの? よくわからないけど、ジイジがそう思うんだったらそうなんだろうし……。それじゃ、ジイジの好きなように呼べば!」 〈まあ、取扱説明書も読まずに初めて使った霊技なので、どう使いこなせばいいのか――当の本人ですらまだ戸惑っている状態なのだよ。ただ、この能力のおかげで、お前と話せたことが唯一の救いになることは確かだね〉 「――そうだね。でも、驚いたよ。幽霊って本当にいるんだね」 〈本人はそのつもりはないんだがね〉 「でも、ジイジみたいな幽霊だと全然怖くないよね」 〈それは、どう受け取ればいいんだか? まあ、幽霊の中にもいろんなヤツがいるからね〉 「怖い幽霊もいるよね」 〈恨みつらみを持って亡くなった人や、思いも寄らぬ不意の事故で亡くなった人の幽霊は、怖いかも知れないね〉 「一緒に送迎霊バスに乗ってきた人の中に、そんな幽霊はいなかったの?」 〈よくは覚えていないが、たしか……、隣に座っていた幽霊はとても綺麗なお嬢さんだったなぁ~〉 「ジイジ!」 〈…………〉 2 「コホン! ジイジ!」 〈おおぉ、すまん。我を忘れて妄想の世界に没頭しそうになるところだった〉 「それより、その送迎霊バスで、ジイジ以外全員あの世に帰ったのかな?」 〈――そうだと、思うんだけど……、よくわからん〉 「ところで、さっきから気になっているんだけど、ジイジは何故私の部屋にいるの?」 〈おお、そうだった。お前が急に部屋から飛び出して行っただろう……、ワタシの目の前でドアが閉められたんだよ〉 「ああ、それで……。じゃあ、ベットまで運んでくれたのは、ジイジ?」 〈だからぁ、ワタシは物には触れられないんだよ。あの時は、お前がワタシの姿を見て、驚いて、後ずさりして、気絶して倒れたところが偶々ベットだっただけのことだよ〉 「な、なんという奇跡!」 〈ああ、ワタシも、あの時お前が気絶したことによって、お前にワタシの姿が見えるのだと確信し、それと同時に安堵したよ。このまま一年間も誰にも知られずに、この世を彷徨い続ける、と考えるだけでもゾッとするだろう。その孤独感と絶望感には到底耐えられそうにもないからね〉 「ジイジは、そんな風には見えないけどね」 〈こう見えてもジイジは、とってもシャイで寂しがり屋さんなんだぞ!〉 「――まあ、そういうことにしておくよ。だけど、物に触れられないのに、どうやってこの家に入ったの?」 〈ああ、お前のお母さんが出かけるときに玄関のドアを開ける――その瞬間を見計らって入ったんだが、やっぱりお母さんには、ワタシの姿は見えていない様子だったね〉 「そうか。私にだけしか見えないってことか……、でも、よかったね」 〈何が?〉 「ジイジは、おしゃべりするのが大好きだったから、私と『コミュニケーション・アクセス・ライン・なんちゃらかんちゃら』ができて――」 〈ああ、それが唯一の救いだな。こうやって『コミュニケーション・アクセス・ライン・なんちゃらかんちゃら』で会話できるわけだから……。それはそうと、ワタシを早く部屋から出してくれないか?〉 「ああ、そうだね」 その時、裏庭の方で物音がした――。 母親の帰宅なら、玄関から入ってくるはず。 〈ん、どうしたんだ?〉 「うん、なんか裏庭で物音がしたような気が……」 台所から裏庭が見える窓を覗き込んだ。 「きゃッ! うっ、うぅぅ……」 突然、背後から誰かに口を塞がれた。 〈どうしたシャーリィ?〉 「ジイジ……、た・す・け・て……」 ――えっ? 〈シャーリィ? シャーリィィ~!〉
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