1 「この家にはお前しかいないのか?!」 突然、コンビニ強盗犯が、ドスの利いた声で訊いてきた。 紗亜莉は、点頭くほか為す術はなかった。 「本当か? 母親は何処にいる?」 紗亜莉は、首を傾げるほか為す術はなかった。 「出かけているのか?」 紗亜莉は、首を上下に振るほか為す術はなかった。 その時、二階から物音がした――。 「んん? 二階に誰かいるのか? 」 紗亜莉は、大きく首を横に振るほか為す術はなかった。 「やっぱり、誰かいるな」 紗亜莉は、さらに大きく首を横に振るほか為す術はなかった。 コンビニ強盗犯は階段の上り口から二階の樣子をうかがう。 「にゃ~お」 「うっ、猫? 猫を飼っているのか?」 紗亜莉は、ただただニッコリと笑うほか為す術はなかった。 「……いや、二階に誰か隠れている可能性もあるな」 そう言って、コンビニ強盗犯は階段を上りはじめた。 2 コンビニ強盗犯が紗亜莉の部屋のドアをそっと開け、室内の樣子をじっくりと確認する。 「にゃ~お」 「うわっ! 脅かすなよ。やっぱり猫かぁ~」 コンビニ強盗犯は、部屋の中に猫以外には誰もいないことを確認し、ドイルを抱き上げる。 ドイルはおとなしく強盗犯に抱かれる。 「おお、接しやすい。何とも人懐っこいおとなしい猫じゃないか」 強盗犯は、「可愛いでちゅねぇ~」と言いながら、モジャモジャあごひげをドイルの顔に近づける。 その一瞬―― ジイジが、精いっぱい頑張ってつくった破壊力満点の強烈な変顔をドイルに見せる。 「にゃぎょおぉぉ~!!」 「ぎ、ぎぇええええええええ~!」 コンビニ強盗犯は、叫び声をあげてそのまま尻餅をついた。 ジイジが見せた取って置きの形相に驚いたドイルが、コンビニ強盗犯の顔面を鋭い爪で引っ掻いたのだ。 〈でかしたドイル!〉 ジイジが聞こえない声で叫ぶ。 その時―― コンビニ強盗犯の叫びと共に、部屋の中に数人の警察官が入ってきた。 抵抗するコンビニ強盗犯を、数人が取り押さえる。 「おとなしくしろ!」 観念したかのようにうな垂れたコンビニ強盗犯は見事に御用となる。 〈――後は頼んだ!〉 と、聞こえない言葉を残し、ジイジは開かれたままのドアから外に出た。 〈シャーリィ、大丈夫か? シャーリィィ~!〉 ジイジが急いで一階に降りると、紗亜莉は母親と一緒に警察官に無事に保護されていた。 3 「本当に怪我がなくてよかった!」 母親が泣きながら、私を抱きしめる。 強盗犯が二階に上がった後、ちょうど母親が帰宅し、すぐに警察へ連絡。近くの交番から駆け付けたお巡りさんに保護され、近所でコンビニ強盗犯を捜索していた警察官がすぐに到着して合流。 そして、この事件は無事に解決したのだった。 「よかった。よかった。これでひと安心だ」 コンビニ強盗犯を乗せたパトカーを見送りながら、近所の人たちが喜びの声を上げる。 「シャーリィちゃん、本当に何事もなくて良かったね」 近隣のみんなが口々に、事件が無事に解決したことへの安堵感と、解放されたシャーリィに労いの言葉をかける。 ジイジの昔からの友人の一人だった近所のゲンさんが安堵の表情が浮かべ、私に向かってこう言った。 「きっと、天国にいる倭都さんが見守ってくれていたんだよ」 まわりのみんなも、「そうだそうだ」、「そのとおりだ」と相槌を打つ。 〈――うんにゃ。ワタシはここにいるよ!〉 「ねっ!」 「にゃ~お!」 ジイジは、ドイルを抱いている私に向かって親指を立て、ニカッと白い歯を見せて微笑んだ。 * こうして私とジイジとの奇妙な生活が、この日から始まった。 果たして、ジイジは無事に天国に戻ることができるのか? はたまた、このあとどんな珍騒動が待ち受けているのか? それは、またいつの日にか……。 そうそう、あの〝なぞなぞ〟の答えは『霊柩車』。 本当は、すぐにわかったけどジイジにはナイショね。 ――あっ! もしかするとこれは、私がジイジの〝霊救者〟になる――っていう暗示なのかも知れないね! 「にゃ~お!」 ――おしまい――
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