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自由律俳句 「DNAの不思議を泳ぐ」 **********  先日、妹が引っ越しをした。都内から都内への引っ越しで、理由は「住みたい部屋を見つけた」から。最高の理由だと思う。  わくわくしながら遊びに行った妹の部屋は、時季外れの引っ越しも納得の魅力的な物件だった。  部屋自体も素敵だったけれど、妹の選んだ家具や雑貨も素敵だった。建築デザインの勉強をしていた彼女には知識もあるし、情報の集め方、選び方も私とは全然違うのだろうな、と感心した。 ◇  妹の部屋から帰宅した私は、自分の部屋の物の多さに辟易とした。  断捨離だ。妹のようにはいかないだろうけれど、とにかく物を減らそう。12月に入ったことだし、大掃除も兼ねてしまえば丁度いい。  単純思考の私は、すぐさま断捨離に取り掛かった。そしてあっという間に行き詰った。    私の手を止めたのは、従弟の結婚式の引き出物で貰ったフラワーアレンジメントである。  箱に入った造花で、枯れないから捨てられない。とっても可愛いのだけれど、わりと大きくて場所をとる。一年ほど玄関に飾って、その後は押し入れに仕舞ったままになっていた。  従弟というのは私の母の姉の息子で、年齢は私より二つ年下だ。彼が結婚式を挙げたのは日本国内に新型コロナウイルスが蔓延する直前で、タイミングとしてはギリギリセーフという感じだった。  私たちは仲が良く、子供の頃は夏休みや冬休みに会えるのが楽しみだった。その従弟の結婚は嬉しく、式に参列できて本当に良かったと思っている。だからこそ、記念品を捨てることには抵抗を感じた。 ◇  私の母は一卵性双生児だ。双子なのでほとんど同時に生まれているのだけれど、便宜上、私の母が妹ということになっている。  一卵性双生児というのはDNAが全く一緒の人間が二人いるということで、私はそのことについてとくにどうとも思っていないけれど、改めて考えると不思議な感じはする。  母親のDNAが同じなのだから、遺伝子のことだけで言えば私と従弟は異父姉弟であるのと同じはずだ。 (私はこのあたりの知識を全く持っていないので、完全にイメージだけで書いています、ご了承ください)  それにしては、私たちは全く似ていない。それぞれの父親が全然違うタイプなのも大きいと思うけれど、それを差し引いても、見た目も中身も全然似ていない。  「育った環境が人を作る」というのは正しいのだと思う。 ◇  一卵性双生児なので、母と母の姉(つまり私の伯母)はそっくりだ。いや、そっくりだった。見た目の話である。  母と伯母が並んでいる幼少期の写真を見たことがあるけれど、本当に似ていて全く見分けがつかない。母に聞いてみたら、本人にもどちらが自分か分かっていなかったのが面白かった(姉妹とも同じ方を指さして「こっちが自分だ」と言い張っていた。彼女たちは仲が良い)。  幼少期は本当に瓜二つだったけれど、今はもうそこまで似ていない。  いや、普通の兄弟姉妹よりは似ているし、一緒に出掛けると「双子ですか?」と声をかけられたりしているので、双子だと分かる程度には似ている。でも瓜二つではない。それぞれの知人なら、誰も間違えないだろう。    姿形も、環境や経験が作るものなのだと思う。ある程度は。  DNAが全く同じでも違う人間である母と伯母は(当たり前のことだけど)趣味嗜好も考え方も全然違うし、結婚相手のタイプも笑っちゃうほど違う。  二人は全く別の道を選び、それぞれの作った家庭で今は遠く離れた土地に暮らしている。   ◇  母に幼少期の頃の話を聞いたことがある。  珍しがってジロジロ見られたり、「双子だ」と指さされたり、知らない子どもに石を投げられたこともあったそうだ。  家でも学校でもずっと一緒で、なにもかもを比較される。姉妹はお互いにうんざりしていて、中学~高校卒業までの間はほとんど口もきかなかったらしい。  仲良くなったのは二人とも実家を出てからのことで、独身時代は姉妹二人で暮らしたこともあったという。  私が物心ついたときには既に二人は仲良しだった。母の出産や我が家の引っ越しの時にはいつも叔母一家が手伝いに来てくれていたし、他の親戚よりもお互いの家を行き来する回数は多かった(とはいえ遠方なので年2回が限度だったけれど)。  呆れるほど頻繁に、しかも楽しそうに叔母と長電話をしている母のことを、子どもの頃は不思議に思っていた。こんなに仲の良い姉妹(しかも双子)なんてレアケースなのでは? と思っていたのだ。  でも今は、母たち姉妹の気持ちが少し分かるようになった。   ◇  私と妹は、あまり似ていない。趣味嗜好も考え方も、全然違っている。 「両親が同じで、同じ家庭で育ったのに、なんでこんなに違うんだろうね」  と笑ったことが何度あるかわからない。  子どものころは喧嘩ばかりしていた私たちは、今が一番仲が良い。  そういうところは、母たち姉妹と私たち姉妹は似ているのかもしれない。でもこれは、血縁とは関係のない単なる共通点のような気もする。  DNAとか遺伝とか血筋とか、ときどき考えるけれど、結局よくわからない。  素敵な部屋に住んでいる妹と、ちっとも片付かない部屋で右往左往している私は、全然似ていないのに不思議に気が合う。それはきっと、とても幸運なことだ。 ◇    断捨離の作業は完全に止まっていた。床に置かれたフラワーアレンジメントの箱は、やっぱり可愛い。  次にこの箱を見るときも私はまず従弟のことを考えて、それから双子と姉妹について考えるのだろう。それでもきっと、時の流れの中で感情や記憶は変わっていく。  私たちはみんな、少しずつねじれて回転していく螺旋階段を上っているのかもしれない。  部屋はやっぱり全然片付かなくて、フラワーアレンジメントの箱は押し入れに舞い戻った。 **********

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