私がなくしてしまったのは、ツイッターに写真を投稿して拡散された、私が話題になるきっかけとなった石で、番組収録で使うために、今日もバッグに入れて持っていた。 今日、ここに来るまでの行動を思い出してみる。 昼過ぎに家を出て、駅までは徒歩。東横線に乗って渋谷まで行き、渋谷で地下鉄に乗り換えて、表参道まで移動。そして、表参道のカフェで友だちと待ち合わせて、お茶してから地下鉄でテレビ局へ来た。 まずは、カフェを当たってみよう。私はバッグからスマホを取り出すと、ネットの検索サイトで、さっき行ったカフェの名前を検索する。すると、店名の横にお店の電話番号が表示された。タップして、電話をかける。 「お電話、ありがとうございます。ホワイトダックカフェです」 「あっ、もしもし。さっき、お店におうかがいしたのですが、そちらに忘れ物をしたかもしれなくて」 「どういったものでしょうか?」 「あの、石なのですか」 「石ですか……? どういった石でしょう?」 「えー、丸みのある平べったい形で、灰色をしていて、白い筋が何本か入っています。大きさは、五センチくらいです」 「かしこまりました……確認いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか」 「わかりました。お願いします」 三分ほど流れていた保留音が途切れると、さっきの店員さんがふたたび電話に出た。 「大変お待たせいたしました。他のスタッフにも確認したのですが、そういったものはお預かりしていないようです」 「わかりました……ありがとうございます」 カフェではなかったようだ。私にとってはとても大切なものだが、はたから見れば、どこにでも落ちているような石だ。もしかしたら、捨てられてしまったのかもしれない。 カフェじゃないとすると、家に置いてきた可能性もある。この時間なら、そろそろ母親が仕事から帰ってきているはずだ。 私はスマホのアドレス帳を開いて、母親の携帯の番号をタップする。 「あ、お母さん! 今、家にいる?」 「そうだけど、どうしたの?」 「私の石、ないかな? テレビに出るときにいつも持って行っているやつ」 「ああ……どこに置いてあるんだっけ?」 「あるとしたら、私の部屋の机の上なんだけど……」 「わかった。見てみるから、ちょっと待ってて」 「ありがとう!」 受話器の向こうで、足音やドアを開け閉めしたりするような音が聞こえる。母親は、携帯を持ったまま、私の部屋へと向かっているようだ。 「あった?」 「……ないみたいだけど」 「ちゃんと見てくれた?」 「もー。大事なものなら、しっかり管理しなさいよ」 「また始まった……もういい! 切るね!」 家にもないようだ。そういえば、家を出るとき、机の上の石をバッグに入れた記憶もある。 いったい、どこでなくしてしまったんだろう。
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