楽屋に戻って、本番を待つ。 私は、私たちも石のようなものだと思う。みんな似ていて、すごく大きな差なんてないのだ。だから、河原に転がっている無数の石のように、そのなかから見つけてもらうためには、何か他の人と違うアピールポイントを探して、見つけてもらうために必死にアピールしなければならない。ここにいるよ、って。見つけてもらわないと、何も始まらないから。私にとっては、石がそれだった。 私は頭のなかで、さっきの三上さんの言葉を繰りかえしていた。 三上さんは、自分の仕事と向き合って、誰よりも丁寧に仕事をするようにしたと言っていた。その結果、今の三上さんがあるんだって。自分はどうだろうかと、胸に問いかけてみる。私は、映画やドラマを観て他の役者さんの演技を研究したり、演技力を高めるための努力をしてきただろうか。「石好きタレント」としての話題性に寄りかかって、役者としての努力を怠っては来なかっただろうか。今のまま、「石好きタレント」としての活動を続けていった先で、私は何を得られるのだろうか。 鏡のなかの自分を見つめてみる。三上さんがしてくれたメイクは、派手さはないけれど、技術はとても確かで、私の役者としての本来の持ち味を引き出してくれているような感じがした。 楽屋のドアをノックする音が響く。 「はーい!」 「本番のお時間になりました! スタジオへ移動をお願いします」 入り口でそう告げると、ADさんはすぐに去っていった。 結局、石は、バッグの普段はまったく使わないポケットの奥に潜んでいた。私は、バッグの口を閉めて、深く息を吸って吐くと、楽屋を出てスタジオへ向かう。 廊下に出ると、壁に映画のポスターが張られていた。ポスターでは、人気俳優が笑みを浮かべている。私も絶対、そちら側へ行きたい。そのためにするべきことをしようと、あらためて強く思う。スタジオの出入り口が見えてきた。私は、出入り口を跨ぐ。石を持たずに。もう、私には必要ないから。 「よろしくお願いします!」 その日のスタジオのライトは、心なしか、いつもより眩しく輝いて見えた。 いつもより強い光を見つめてた静かな夜のはずだったのに
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