クロネコノダンザイ
<第十九話>

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 俺達は、気まぐれに猫会議をする。いつもなら三丁目の空き地なのだが、今回はまだ警察官がうろついているため別の場所で行われることになった。  四丁目の、アカがねぐらとしている廃工場。  今回は気まぐれな会議などではない。大きな目的のための、三丁目&四丁目連合軍の作戦会議である。  三丁目のボスの俺と、四丁目のボスのアカ。  その下に集った猫は、総勢で三十二匹にも及ぶ。 「いいかお前ら。今回の戦いは、ただ死んだ猫達の弔い合戦ってわけじゃねえ。これ以上犠牲者を出さないため、俺達猫の未来を守るための戦いでもある。……四丁目のお前ら、三丁目の俺らと協力するのは少々不本意な奴もいるかもしれねーが、今回はどうか割り切ってくれ。これは、もう三丁目とか四丁目とかそれだけで片付く問題じゃない。望月町の猫全体の問題だからな」 「まずは、みんなの意思を統一したいと思う。俺様から説明させてもらうぜ」  アカが一歩前に進み出る。それだけで、少し不満げで荒くれ者の多い四丁目の猫達も大人しくなった。彼の求心力の高さが伺える。まだまだ俺にはない力だな、と素直に尊敬した。なんといっても、アカは傍にいるだけでオーラが違う。そして、自分の町の猫一匹一匹の性格や顔をきちんと把握している。ぐうたらなデブ猫に見えるが、それぞれの猫達の気持ちに寄り添った器の大きな猫が彼なのだ。 「四丁目、並びに三丁目で起きた連続猫殺傷事件。犯人は四丁目三番地に住んでいる、矢吹ってところの家の大学生だってことがわかった。恐らく、庭には今までいなくなった猫達の亡骸が埋められてることだろう。その数はまだ把握しきれてねえ。人間があいつを捕まえて庭を掘り返せばはっきりするかもしれねえが、まだ人間どもは犯人を特定できてない様子だ。今のうちに、俺達の方のケジメもつける。ただし、殺すのはダメだ。俺ら猫が人間を殺したともなれば、いくらそいつがクズであったとしても人間どもは総じて俺らを危険視することになる。今後の俺らの安全が脅かされたんじゃ本末転倒だからな」  そんなアカの言葉に、猫達のあちこちから不満の声が上がった。その多くは、死んだ猫の親兄弟であったり、親しい友人であった者達である。特に四丁目は壊滅的な打撃を受けている。大切な存在を奪われ、怒りを溜め込んでいる猫は少なくない。 「何で殺しちゃいけねぇんだ……!俺らにだって復讐する権利はある、そうだろう!?」 「あの子はのたうち回って、苦しんで死んでいったんでしょ……そいつも同じ目に遭わせてやるべきだわ!!」 「許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない……っ」 「殺すのがダメとか冗談じゃない!殺さずにしてどうやって止めるってんだよ……っ」 「噛み付いて腸引きずり出してやらなきゃ気がすまねーよ!」 「俺らの安全!?殺さなければ安全なんて買えないだろうが、あいつが生きてる限り同じことはいくらでも繰り返される、違うか!?」 「アカ、生ぬるいこと言ってんじゃねえ、報復だ!猫のやり方で復讐してやるべきだ、違うかよ!?」  ニャアニャアと、怨嗟の声が響き渡る。静粛に!とそれを収めるように俺は声を上げた。 「お前らの怒りは至極真っ当だ。俺だって、可愛がってた弟分を殺された。本心を言えば、殺すだけじゃ飽き足らねぇ!噛み付いて、手足引きちぎって、腸引きずり出して、生きたまま焼き殺してやるくらいしなけりゃこの怒りは収まらねぇって思う!でもな!!……俺らがやった行為が、これからの猫の未来さえ危険にさらすようじゃ論外なんだよ。お前らは、自分の子供達に……人間に追われ、捕まり、殺され続けるような経験をさせたいと思うか!?もし俺らがクズを殺したら、人間全部が俺らの敵に回るかもしれないってことを忘れんな。俺らの、そして子供達の、あるかもしれない幸せを奪うようなやり方じゃダメなんだよ!!」  エゴかもしれない。自分勝手かもしれない。  でも、俺はちゃんと知ってるのだ。 『いやさ、会社の先輩に……ちょっと過剰なくらいに、動物愛護ってのを訴える人がいてさあ。猫が人間に飼われてること自体が可哀想だなんて力説してきたんだよ。狭い家に閉じ込められて、人間の道具みたいに可愛がられて……本当は猫だってみんな、広い場所でのびのび走り回っていたいはずなのに、人間がそんな猫の自由を奪ってるだけなんじゃないかって言うんだ。だから……ペットショップも、猫を飼ってる人も、可愛がってるつもりで実際は虐待してるだけなんじゃないかっていうんだよな。……勿論、俺はそんなつもりなんかないし、クロコのことは大事にしてるつもりだけど。でもそれが本当に一人よがりじゃないのかって言われたら……段々自信なくなってきちまって』 『……お前らはさ、いつだって俺達人間の都合で運命を決められてるんだよな。ペットショップで飼われれば飼い猫になる。捨てられたり、野良猫の親から産まれたら野良猫になる。酷いとそのまま死んじまうことだってあるだろ。……猫は自由に生きてるように見えて、その未来は俺らがいつも好き勝手に決めてきたってのは間違いないとも思うんだ。だって猫は、飼い主を選べないし……野良猫になるか飼い猫になるかも自分で選ぶことなんかできないだろ?いっつも人間の都合に振り回されてる。よく考えたら、酷い話だよなあ』 『なあ、クロコ。お前さ、本当は野良猫になりたかったりすんのかな。俺に飼われてんの、嫌だったりするんじゃないのかな。……俺、お前の自由を奪って、本当は知らず知らずのうちに酷いことしちゃってたりとか……』  人間には、矢吹みたいなクズもいるが。それがけして、全てなんかじゃない。  ちゃんと俺らのことを愛して、心配して、真剣に悩んでくれるヤツだっている。  俺は、猫と人間が――これからも共生して生きていける未来であって欲しいと、そう思うのだ。たとえ、どれほどお互いにすれ違い、傷つけあうことがあるのだとしてもだ。 「そして、今回の戦いで。俺は一匹の死者も出すつもりはねえ。お前らもそこはよく肝に銘じておくんだ。俺らの戦いは未来を掴むためのものだが……誰かの命を捨てるようなことがあっちゃならねえ、その時点でもう勝利なんかじゃねえんだってことをな。全員で戦って、必ず全員で生還だ。間違っても、命懸けの無茶なんかするな。そんなことは俺もアカも望んじゃいねえ」 「その通りだ。俺様は、此処に生きているお前ら全員のことが好きだ。クロコもそうだ。俺様達の顔を立てるつもりがある奴らは、絶対に生きてこの作戦から戻ってくるんだ。わかったな?」  二匹のボスがそう言えば、怒りをたぎらせる猫達も黙るしかないのだろう。彼らが暴走しないように制御するのは自分達と幹部達の役目である。  す、と。前に進み出たのは、実質三丁目のナンバー2であるベティだ。 「私から解説させてもらおう。……昨日、私は先の事件で亡くなった猫達の状況をみんなに聞いて回っていた。また、あのクズデブ男の行動パターンも調べさせて貰った。そこでわかったことがある。奴の犯行は総て、土曜日か火曜日に集中してるんだ。というのも、その翌日の日曜日と水曜日、奴は殆ど家から出てこない。早朝に家に帰ってきても翌日に予定がない……恐らく大学の講義とやらを入れてないんだろう。その結果、ほぼ土曜日か火曜日の深夜から早朝にかけて動くことにしているんだろうな」  表沙汰になった一件目の事件は、土曜日の犯行だった。次の二件目は火曜日で、ミッキーが死んだのも火曜日である。そして四丁目で猫がいなくなったのが発覚するのは大抵水曜日か日曜日だったそうだ。――やはり、犯行が火曜日か土曜日であることはほぼほぼ間違いがないのだろう。 「つまり、水曜日と日曜日、奴は家で殆ど寝て過ごしてるってことだ。……そして、あいつの両親は平日は朝から夕方まで仕事でいない。つまり……水曜日の昼なら、あの家にはクズ男しかいないってことになる。ただ、昼間の襲撃は見つかりやすいって問題もあるからな。水曜日に襲撃するのが正しいのかどうかはイマイチ疑問だ」 「私達猫のアドバンテージの一つは数、もう一つは夜目が利くことにあります。なので、できればことを起こすのは夜の方が望ましいでしょう。そこで、私から提案があります」  ベティの言葉を補足し、イリスが耳をピンと立てて言った。 「襲撃を、次の土曜日の深夜から日曜日の明け方にすることを提案いたします。というのも、次の土曜日と日曜日なのですが、矢吹家に張り込んだ仲間の話によると……彼の両親が、その二日間は旅行に行っていて不在らしいのです。クズ男だけを狙いたい、そして人間の戦力がないタイミングで叩きたい私達からすれば、このあたりが絶好のチャンスでしょう」  矢吹家の、デブ男の両親を巻き込むつもりはない。というか、下手に息子可愛さで邪魔されてもたまらないというのもあるのだが。あんな男でも、甘やかしているあたり愛情がないわけではないのだろう。むしろ、愛情があるからこそ甘やかし、高い学費を支払って大学にやっているとも言える。 「土曜日の深夜。デブ男は、標的にする猫を探すため四丁目と三丁目を徘徊することが見込まれます。ちなみに、彼は今のところ三丁目・四丁目以外に猫狩りに行ったことはないようですね。恐らく距離の問題でしょう。そして狩りに行って標的がいなくても、他の丁目まで足を運ぶことはないというのが過去の観察でわかっているようです」 「まあ、あんなデブだからな。自転車使っても、体力ないんだろ。二丁目、五丁目あたり坂も多いしな」 「そういうことです。……ですので、私達はまず……次の土曜日の深夜、狩りに出るであろう男を翻弄することから始めようと思います。つまり、奴を思い切り消耗させてやるんです。あの男が罠を仕掛けている、そして狩りのため出てくるということを我々全体で周知し認識していれば、そう簡単に捕まってやられるということもない。そして、猫である我々と、あの男の通れる道、入れる隙間には大きく違いがありますから。……最初、我々は二つの班に分かれて動きましょうか。狩りに出たあの男を翻弄する組と……あの男の家で待機し、罠を仕掛ける組とで、です」 「だな」  俺は頷き、猫達に号令をかける。この数、そして夜目。人間にはない器用さ、そして道具の力。これだけいれば充分補って戦うことも可能であるはずである。  そして。あの猫を――リコを救うことも、きっと。 ――待ってろよ、ミッキー。  俺は、ヒーローになろうとした勇敢な子分のことを思い出しながら、心の中で呟いた。 ――お前が助けたかったあの子は。俺らが必ず救い出してやるからよ。

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