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 父の葬式には会社の関係者や学生時代の友人、親戚がたくさんやってきた。父の会社関係者にでも紛れていれば、麻美さんは母と弟に摘発されることもなかったのに。  喪主をしていた母は動けなかったけれど、参列者のなかに見慣れない女を見かけて何かを感づいたらしく、弟をけしかけて、麻美さんに話しかけさせた。  私がそれを見ていたのは、私からしても彼女は何か異質で目立っていたから。特に派手とか美人とかいうのではないけれど、眉がくっきりとして額が広く白く、唇を一文字に引き結んで、何かただならぬ雰囲気を醸し出していた。  弟は慣れたもので、穏やかな表情を浮かべて彼女に近づく。  当たりよく話しかけているのは見ていて分かるが、腹の中は疑いに満ちている。彼女はだんだんと俯いていく。  私はそれで確信した。  彼女は、父の女だ。  むしろそのとき、私は希望を見た気分だった。父が、あのようなつまらない女一人で生涯を終えずに済んだということに。  弟の視線を受けながら、彼女は腰を浮かして席を立った。  「出ていけ」と暗に言われたのだろう。  弟は送りもしない。彼女は静かに歩いて外に出る。大方の葉は落ちた植栽の間の道を振りかえりもせずにまっすぐに出ていこうとする彼女の後姿を私は小走りに追いかけていた。

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