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「何になさいます?」  私はメニューを差し出して尋ねた。彼女はそれを手にとったものの中身は見ずに、すぐにウェイターを呼んでアメリカンを注文した。  コーヒーが来るまでの間が落ち着かない。麻美さんはそっと目を伏せている。私も自分のカップを手にしたり、置いたりを繰り返した。 「お待たせいたしました」  アメリカンが来ると、彼女は静かに口をつけた。きっと喉はからからだったに違いない。  彼女が一息ついたのを見て、私は口を開いた。 「先日は、母が、ひどいことをして申し訳ありませんでした」  麻美さんははっと顔を上げて、首を振る。 「いえ、当然です。お詫びするのは私のほうです」  彼女の反応は当たり前のものだった。私はさらに彼女の中に入りたいと思った。 「父を、愛してくださっていたのですよね」  疑念の色が彼女の広い額に浮かんだ。

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