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「今度見せてよ」 「ああ、無理です。実家のアルバムにあるはずだから」 「……そう」  彼女はそれ以上は訊かない。  食事の時間は終わった。外はまだ明るい。  このまま別れたくはない。 「あの、これから麻美さんのお家へお邪魔してもいいですか」  恐る恐る訊いた。彼女は微笑を浮かべたまま、「いいよ」と一言答えた。  彼女の部屋に入るのはあの時以来だ。もちろんまた彼女を裸にするつもりはない。今の私の目的は、父の撮った彼女の写真を見ること。  やはり彼女の部屋は整っていた。彼女は、父を喪ってどう感じているのだろう。私は彼女に心を任せたけれど、彼女はどうなのだろうか。父を喪って、悲しくはないのか。乱れたところを、泣き叫ぶようなところを、彼女は私に見せたことはなかった。 「また、ジャスミン茶でいい」  彼女が狭いキッチンで棚からしゃれた缶を取りだしながら言う。 「はい」  どうせ味などわからない。  父は家でジャスミン茶を飲むことはなかった。ほとんどが緑茶かコーヒーだった。母はそれ以外のものを買ってきたことがない。  もっとも、私は大学を出て就職すると同時に実家を出た。自分のお金で住まいを得ることができるなら、その方がよかったのだ。  ポットの口から注がれる金色の飲み物が湯気を立てる。  私は少しだけ口をつける。

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