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 赤ワイン。見た目にも美しくおしゃれなディッシュが運ばれてくる。  さっき彼女に訊いたのは愚問だったと思い直す。彼女はきっと私の知らない父の顔を知っているに違いないが、それにしてもこれは父の趣味ではないのではないかと思った。むしろそれだからこそ、麻美さんは父と来てみたかったのかもしれない。  麻美さんは一口サラダを口に入れて、咀嚼すると、「正解だったわ」とうれしそうに言った。私を誘った以上、お店が外れだったらどうしようかと気になっていたのかもしれない。  私は笑顔で頷いて「美味しい。どんどんいけそう」と相槌を打つ。これは嘘だ。私の味覚は壊れているのだから。  味というよりは見栄えの美しさを楽しみながら、私は食事を進める。  赤ワインを口に含む。少ししびれたような感覚がするだけだ。けれどお酒だから、ほんのりと温かくなる。美味しくいただいているお芝居をして、彼女の食事の様子をそれとなく観察する。少しお腹が満ちてきたのか、先ほどの写真展のことを口にした。 「案外よかったわね」 「ええ」  これは正直な答えだ。 「やっぱり、写真はフィルムで撮った方がいいのかな」  私と同じ感想を抱いたようだ。 「父と同じこと、いいますね。父が写真を撮るところを見ましたか」  彼女は少しだけ口を開く。何か言おうとして考えるときの癖なのかもしれない。 「勲さんはカメラが好きだったわね。小型のデジカメでなく、古いフィルムのカメラを」 「やっぱり、麻美さんと一緒のときも持って来ていたんですね。父は、フィルムにこだわってました。さっきの展覧会の写真を見ていて思い出したんですけど」 「睦ちゃんも、たくさん写真を撮ってもらったのじゃない?」 「ええ」  頬がほころぶ。 「そんなに多くはないけれど、赤ちゃんのとき、幼稚園のとき、七五三、小学校、中学校、高校、大学……それぞれの入学式の写真が残ってますね。典型的な記念写真が多いです」  また涙がこぼれそうになった。父は、どんな気持ちで撮ってくれた?

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