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 麻美さんが伝票をとって会計に向ったので、私は慌てて追って「別々にお会計を」と頼んだ。麻美さんはその通りにした。  店を出ると、彼女は前に立って歩きはじめた。 「すぐよ。5分もかからない」  確かに、商店街を逸れて住宅地に入ると、あるマンションのエントランスに彼女は入った。カードキーで自動ドアを開け、中に入っていく。私は黙って後を追う。  女性向けを意識したようなこぎれいなマンションだった。中に入ってすぐ右手のエレベーターのボタンを押す。すぐにドアが開き、私が乗りこむと、7階のボタンを押した。 「703号室。私の部屋」  こちらを見ずに彼女は言った。  父はきっと、先ほどのエントランスで「7」と「0」と「3」のボタンに、何かのアルファベットか記号を足して、彼女を呼び出していたのだ。  父が何度も何度も出入りしたマンションなのだ。すでに、私の知らなかった父の領域に入っている。  彼女なら、私の思いをきっとわかってくれる。なぜだかそんな確信が私にはあった。

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