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自殺サイト~ZERO~                       藤原達也と新垣優美は高速を降りて国道を走り、青山学院大生2人が渋谷駅で待っているのを確認した。彼はその学生を車に乗せ、池袋駅でさらに立教大生2人を乗せ、鎌倉へ向かい、由比ガ浜で車を止めた。彼は青酸カリの包んでいる包を皆に渡した。  いろいろな人がいる。手を震わせながら受け取るもの。顔をしかめながら受け取るもの。感慨深げに受け取るもの。恐ろしくて受け取れないもの。彼らは両大学の学生部と実家に同じメールを出した。 「先生、お世話になりました。私は逝きます。お父さん、お母さん、産んでくれてありがとう。私たちはもう疲れました。4人の人生はそれぞれ違います。でも行き着くところは同じです。私たちは怖いから一緒に死のうと思いました。私たちはここに命を捨てますがあの世で再び会えると信じています、それだけが今、言える全てであります」  ここで、このサイトの常連というべき人を書く。    藤原達也  彼は高校1年から野球で名の知れたスター選手であった。だが高校2年のときにした試合で大怪我をした。自分の横へ上がったバントを無理な態勢で取りにいき左の肘を粉砕骨折した。その後手術は成功したが、先生に野球は無理だと言われた。キャッチボールぐらいしか出来なくなった。甲子園へ行くという夢が破れた。彼は学校へ行かなくなった。部屋に鍵をかけひきこもった。食事はドアの前に置いてもらった。彼は無表情になった。彼は野球の推薦で高校に入ったのだから、辞めねばならないと思い込んでいた。暗い部屋でネットをし続けていた。その時に小さな自殺サイトを見つけた。いろいろな事情の人がいた。荒らす人もいた。自殺の話題は尽きなかったが、「定例会」と称する土曜日の7~8時までの1時間は真面目に自殺を語る人のみが発言した。そしてそれぞれがメールを送って時間と場所を決めた。彼は管理人に自殺の仲介者になりたいと言った。管理人は自分を手伝う人を探していた。彼は副管理人になって自殺を結果的に後押しする役目になった。  ある男性は富士の樹海でと言った。すると女性が鳥や獣に喰われてボロボロになるしと言った。達也は死んでからの事はどうでもいいと思っていたから場所などどこでもよかった。しかし綺麗に死にたいと言う人が30分から1時間後くらいに発見されるのが理想だと言った。体のどこも腐っておらず、死臭がしないうちに発見されたいと言った。他の皆も一応それを希望した。そのため彼はメンバーが自殺をしてから1時間後に警察に電話することにした。薬品はメンバーの一人の父親が医者をしていて、盗み出す事は可能だった。彼らのうちで死ぬのを拒否した人間は、自殺ではなく他殺扱いになった。つまり殺されるということだ。その規則があるため、よほどの死への決心がなければ7~8時に自殺したいと言う参加者ははほとんどなかった。  新垣優美  彼女は大きな病院の院長の娘である。容姿端麗で明晰な女性だった。しかし彼女にも悩みはあった。彼女は仲良くなった子供がある日ふっといなくなる様に耐えられなかった。この世は不条理で満ちていると思っていた。2歳で小児がんで亡くなる人もいれば、80歳超えてもやくざの大親分として君臨し、ベッドの上から指示を出しているのを見ると神様は冗談でこの世を造ったのかと思った。彼女にも強い死への願望がある。彼女と達也はメールをしあう仲であった。この自殺サイトはZEROというハンドルネームしか知られていない謎の管理人を含め、三人で運営されていると言ってよかった。彼女のような人が何故このようなサイトを運営しているのかは誰にもわからなかった。  松山ケンジ  彼は最も危険な人物である。自分への殺意と同時に他人への殺意が強い。胸を一気に貫きたい欲望が強い。このグループに入っているから今まで事件を起こさないで自殺しなかったのだ。彼は時折、狂ったように「死にたい」と書き込んだ。すると皆が「死ぬことない」「一回きりの人生じゃないか」「ケンジが悪い訳じゃない」と反対した。これは異例のことだった。彼はこのサイトで重要な役割を果たしてきたからだ。彼は7~8時の「定例会」の常連になった。  大沢優子  彼女は可愛らしい顔をしていて凛としたところがあり学年のトップクラスの成績だった。家も裕福で何不自由ない生活をしていると思われていた。しかし自分が、またこの世が何故あるのか全く理解できなかった。この宇宙全体が一つの点状のものから生まれたなどというビッグバンなど信用していなかった。彼女が授業中に上の空になるのは、それを考えていたからだ。この疑問が自分の生きているうちにはとても解けないということも彼女を追い込んでいた。彼女は自分が死ねばこの問題が解けるかもしれないとひそかに思っていた。  ボースン  彼は自分のことは全く話さないため誰も彼がどんな人物か知らなかった。このサイトでは古株と言ってよかった。歯に衣着せぬ書き込みを皆、面白がっていた。シニカルでユーモアがあり毒のある書き込みだった。  ここでは出席者が「死にたい」という参加者を止めることはしない。今日の参加者は4名だった。藤原は参加者の一人である江川拓也に死にたい理由を聞いた。 「僕は高校でいじめにあい、不登校になりました。クラスに入ると机の上に花瓶が置いてありました。黒板に江川死ね! と大きく書いてありました。僕は死んだ方が皆が喜ぶと思いました。僕は自然に自分は死んだ方がいいと思いました。そして高校を中退し、ひきこもっていましたが、大検を受けやっと大学に入りました。でも鬱病で講義にも出なくなり死ぬ以外ないと思いました」  藤原は時々江川の虚ろな目を見つめていたが、ずっと黙って聞いていた。江川はこれは全て決められていた運命だと思った。  あと3人は目を伏せがちで、沈黙していた。藤原は4人を公園の木陰に連れていった。そして芝生に寝かせて青酸カリの包みを開けさせた。5、4、3、2、1と彼は数を数えた。数え終わると4人は同時に薬を飲んだ。苦しみ、もだえ、痙攣をへて息絶えた。   藤原と新垣は合掌した。  帰りの車の中で二人は話をした。 「もう何人見送っただろうか。僕は正しいことをしているのだろうか」 「自殺は人間に残された最後の自由よ。がんじがらめの現実から離れられる唯一の手段なんだわ」 「あなたのように恵まれた人が何故自殺に心惹かれるのは分からない」 「恵まれていようといまいと関係ないわ、そんなことは表面的なことなの。容姿なんて、一皮剥いたらみんな同じよ。院長の娘だからってそれが何になるの。幻想だわ」  藤原はでもやはり疑問符を持った。彼が彼女だったら自分の境遇に満足し感謝して生きる道を選ぶだろう。並外れた容姿は自殺サイトの顔には適さない。  彼は彼女をマンションで降ろし、自宅に向かった。    翌日の朝のニュースでは4人が集団自殺している現場を生中継していた。死因は青酸カリのもようだと伝えていた。藤原は罪悪感を覚えた。彼らの自殺への意志は固かったが、それを覆すこともできたのではないかと思った。あのサイトは人生相談所ではなかったし、チャットという半ば匿名の参加者が無責任に話をする場だ。自殺したい人たちを救う場ではない。その夜の定例会のチャットは荒れていた。 〈ボースン〉あの4人が死んでよかったな、最近、面倒になってきたからな、チャットで 泣いたり叫んだりするな。死ね死ね死ね死ね!。4人分ね。あ、もう死んだのか。死にますってチャットで言うのは反則だよ。勝手に自分で死ね。 〈ココロ〉そんなこと言わないで。言いすぎだわ。今日は4人のご冥福をお祈りしましょう。  皆が賛同してチャットが沈黙のまま1分過ぎた。 〈テトラ〉暗号化してチャットをしているけど、今にばれるよ。ばれたら当然殺人幇助だね。私はただの参加者だからお咎めなし。 〈テクノ〉俺なんて障害者年金で一生暮らせるからね、嫁も働いているし悩みなんてまるでないよ。俺の病気は治っているんだ。医者を騙すんだよ、ケケケ。毎日元気いっぱいだよ、ククク。 〈マイク〉もう何人に自殺の手ほどきをしたか分からないなぁ。化けてでないかな。自殺は幼稚な精神の持ち主がするもんだよ。しかしキリがないもんだね。 〈名無し〉死にたい人は死なせてあげなきゃ。逆に恨まれるよ。俺たちの本性は殺し屋だからね(笑)。責務を全うしなくちゃいけない。 〈ファルコン〉このチャットは自殺したいものを助けるものにすべきだ。今の状況はZEROも望んでいないだろう。これ以上自殺者を出すようなことがあればこのサイトは閉鎖するかもしれない。

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