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 接見用の透明アクリル板の向こうに座っている人物はなんと、父親であった。 「親父……」  無精髭を伸ばし、白髪交じりの髪はぼさぼさで、薄汚れたジャンパーをだらしなくはおっている。  確か今年で45歳になるはずだが、すっかり零落してジジイのようだ。 「なんの用や?」  知可が部屋のイスに腰を下ろす。 「どないしてるか、様子を見てこよう思うてな」  上目づかいの卑屈な目線でいう。  実の娘を働きにだして自分は家で酒をあおっていたろくでなしだ。  知可はその言葉を額面通りに受け取ることができない。 「さっさと要件をいえや」 「ほな、いうけど、姉さん……いや、おまえのおばさんがいうには今月分の給料は渡しておるっちゅうんや。おまえ、もろたんか?」  そういうことか。知可はようやく納得がいった。  大阪の難波から瀬戸内海の九鬼島くんだりまでわざわざ会いにきたのはカネが手元になくなったからか。 「ああ、もろたよ。親父が横からかすめとってゆくもんやから、伯母さん、気ィ利かせてくれて、ウチの銀行口座をつくってくれたんや」 「口座番号と暗証番号、教えてくれんかのう」 「なんで教えなあかんの? ウチのカネやで」 「そやかて……頼むわ、このとおりや。くれとはいわん。カネは必ず返す。  今週末のレースで倍にして返すから――」  瞬間、接見室に爆弾のような音が響いた。  知可が拳をアクリル板に打ちつけたのだ。 「働けや! このカスがッ!!」 「お、親にそないな口きいてええんか!?」  父親が首筋を亀のように縮めていい返す。 「親やったら親らしいことしてみせたらどうや!  娘がこないなところにぶち込まれてもまだ、タカリにくるんかッ!!」 「おい、連城!」  見かねて立会人の教官が立ちあがった。 「面会はしまいや!」  そういうと知可は接見室をでた。  怒りがおさまらない。  どうして、自分はあんな父親のもとに生まれてしまったのか?  神様は不公平だ。  いや、神様なんていない。  あるのは運と不運だけだ。  知可が運動場にもどると空気が変わっていた。  黄色い声はどこからも聞こえてこない。  みんなの視線がある一点に集中している。  その視線の先にいるのは―― 「なつみ!!」  ストバスのハーフコートの真ん中で、なつみが腹を押さえて倒れていた。   第7話につづく

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