朝起きたみどりは、目覚めはすっきりしていた。なんだか昨日のブランコのおかげかなとも思う。しかし、だんだんと気は重くなる。理由は昨日の件…。中田の気持ちがなんとなくわかるみどりだ。でも、学校を休むわけにはいかない。お母さんが心配するとそんなことを考えながら登校するみどりだ。 朝、下駄箱に行き、いつものように上履きに履き替えようとしたとき、上履きの奥に白い封筒らしきものが見える。 まさか…これがうわさに聞くラブレター?昨日バレンタインデーだったから今日くれるみたいな習慣が東京にはあると?そんなことを一瞬考えるが、よく見ると事務用封筒のようだ。ラブレターに事務用封筒はないなと思い、周りに見られないようにそっと取り出し、さっとカバンに入れる。 いそいでトイレの個室に入り、封筒を開けてみる。中身は、なんと伝之助から。内容はいたってシンプル。昨日のことは申し訳ございませんでした。直接お詫びがしたいので、お時間ありますか。今日の放課後に学校最寄りの駅のホームでいかがでしょうか。と書いてある。仰々しい文体で、なぜか毛筆、というか筆ペンで縦書き、漢字は上手くひらがなが下手なカクカクした字で書いてあったので少し笑ってしまうみどりだった。 みどりは授業の合間に小さい手紙で「OKだよ」と返事を岡倉に渡す。なんだか放課後が待ち遠しい。朝の気持ちが嘘のようだ。伝之助が自分と仲直りがしたいという気持ちがあったこと、そしてそのために行動してくれたことがとってもうれしかった。 放課後、みどりは入場券を買って学校最寄りの駅のホームに向かう。ここで会うのは久々だな。伝之助は見られてもいいのかなとそんなことを考えながらホームに向かう。 ホームにはすでに伝之助はいた。みどりを見て座っていたベンチから立ち上がる。ああいうこともあったので、なんだか恥ずかしい。しかし伝之助の方から頭を下げてきた。 「すいません。おれ、何も知らなくて、ついかっとしちゃってひどいことをいいました。とんでもない「ふうけもん」ばい。謝ります」 方言まじりで岡倉は頭を下げ続けている。 みどりは岡倉の謝罪の気合がすごいので思わずいう。 「大丈夫ばい。そんなに頭下げられっとうちもどげんしたらよかか…(どうしたらいいか…)。あれはうちも勝手に入り込んでしまったけん、悪いのはうちや。ごめんしゃい…」 そう言ってみどりも頭を下げる。お互いに頭を下げているのであげるタイミングが分からない。おそらく岡倉はみどりが頭をあげたらあげようと思い、みどりもその逆を考えいるようだ。お互いに少し頭をあげて様子をうかがうが、なんだか面白いので笑ってしまう。 「あははっ、よかった」 「そうね、よか」 二人はベンチに腰掛ける。岡倉は今回はみどりの隣に座って語りだす。 「おれ、知らなかったんだ。中田とみどりさんが友人だったなんてさ…。みどりさんは中田から何か聞いてたんだよね。なのにおれさ、何も知らない人がなんて言っちゃってさ。まこっつ「ふうけもん」ばい…」 「伝之助くんは正美さんとうちのこと知っとっとか?」 「まあ、そんな話を聞いたんだ」 みどりは、まあ隠してるわけじゃないし、中田さんも誰かにうちとの関係を話したんやね。それが伝之助に漏れ伝わったんだ。中田さんはうちのこつ友人って言うてくれてたんだ…よかねーとなんだか心が温かくなる。 「みどりさんの言う通りなんだよね…」 「なんが?」 「おれは怖いんだよ」 岡倉は語る。たぶん、中田が自分を無視しろと命令を出して女子が無視を始めたという事実などどうでもいい。自分が怖いのは、中田が本気でそう思っていたかだと。もし、本気で中田がそう思っていたらおれはどうすればいいのかな、過去は壊れてしまうのでは、と思う。さらに中田に対してそういう疑いの気持ちを持つ自分が嫌だと。それをみどりに指摘され図星だったのであんなことを言ってしまったのだと思うと。 その言葉にみどりははっとして、中田の言葉を思い出す。「思い出を壊してしまった」と言う言葉だ。 「壊れてなか…」 思わずつぶやくみどりに、岡倉は「なんが?」と聞き返す。 「あの、気い悪くせんで聞いとってね」 「今さら、何ば言われてん平気ばい」 岡倉は真剣な顔でみどりの目を見つめてそういう。みどりも岡倉のとび色の目を見て言う。 「まだ、壊れてなか。伝之助くんがそう思っておるなら」 「おいが?」 「うん。どがんなるか、うちにはわからん。ばってん、今は今の自分がなんとかするしかない!」 みどりの言葉に岡倉はじっと考え込む。そしてきっぱり言う。 「そうだな、そんとーりばい!あいつと腹を割って話そう!」 「それがよかばい!(それがいいよー!)」 みどりは、そう言いながら、二人が仲直りしたら、伝之助君と話す時間はのうなるんじゃろうな…と思う。 「あっ、みどりさん、これ食べん?」 岡倉は突然そう言って「きのこの山」を取り出す。みどりは一瞬、固まるが、すぐにカバンから「感謝のチョコ」を取り出す。 「伝之助くん、うちも…。これどうぞ。いつもお世話になっとるし」 「えっ、そうなんだ。どーも」 「こちらこそ、あいがと」 そう言って二人は少し照れながら笑顔になる。 「じゃあ、早速、ここで食べっか?」 「よかねー」 この後二人は、「『きこりの切株』って仲間?」「あれは、会社がちがうけん」などチョコを食べながらいつもより長くたわいもない話を笑顔でしたのだった。