「お待たせ! できたよ!」 スタッフさんが戻ってきた。トレーにはリングと猫のマスコット。ストラップになってるみたいやった。背中にチャックがついてる。 「ありがとうございます。はい」 「あ、あ、あ、ありがとうございます、やの」 小焼くんに左手を掴まれて、薬指にリングを通された。可愛いの、とっても可愛いリング。小焼くんはリングにチェーンを通して、ネックレスにしてた。手につけへんねや……。 「はい、お代を寄越せこのヤロー!」 「急に雑にならないでくれますか?」 「きみには言われたかないね。あ、三万円以上のお買い上げだからノベルティつけとくね。この猫ちゃんはどうする? つけていく?」 「どうしますか?」 「え、えっと……」 小焼くんは茶トラの猫ストラップを持ってる。とても可愛いの。タグにきちんとIMGのロゴが印刷されてた。 「つけていくの」 「わかりました。どうぞ。ああ、ノベルティもどうぞ」 「ありがとうございますやの」 ストラップを受け取ってスマホリングに通す。えへへ、可愛いの。小焼くんは白い猫のストラップをスマホにつけてた。そういえば、白い猫を飼ってるって聞いたような気がする……。後で詳しく聞いてみよっと。 支払いも済んで、ショップを出る。……付き合って欲しいって言われてすぐにペアリングまで貰ってしもた。ウチ、こんなに幸せで良いんかな? これからいきなり不幸になったりしやんかな? 良い事があったら、必ず悪い事もあるから、怖いの。 「どうして泣いてるんですか?」 「あ、うっ、……ごめんなさい……ごめんなさい……」 「泣かないでください。困ります」 考え出したら怖くなって、涙が溢れてきた。小焼くんが困ってるから泣き止まなあかんのに、涙がどっとわいてくる。俯いてたら、顎を掴まれて仰けられる。小焼くんの顔が滲んでみえる。早く泣き止まな……。 「けい」 頬を包み込むお手てが大きくて、あったかい。指で涙を拭ってくれる。大丈夫、きっと大丈夫やの。小焼くんが困ってるから泣き止むの、早く。泣き止むの。 不意に唇に指が触れて、ふにっ、とされた。 「……頬も、唇も、やわらかいですね」 「はうっ!」 「食べたくなる……」 うわ言のようにボソッと呟かれた言葉。た、たべ、食べたくなるって? ビックリして涙が止まった。すっ、と小焼くんの手が離れる。 「ご、ごめんなさいやの……」 「いえ、私こそお前を泣かせてばかりですみません。何かあればすぐ言ってください」 「はいやの」 大丈夫やの、きっと大丈夫。怖いことはないの。
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