抜いて……って言うてたの。それは、つまり……! 言葉の意味がわかって恥ずかしくなってきた。フェロモン香水、効いてるんやの。あんまり触らないで欲しいって、我慢できなくなるからって……うぅ、どないしょ。触ったら、ウチ、またあの時のように……押し倒されるんかな……。それは少し怖いやの。でも、キスくらいは、したい、けど……。 ……素直にもう寝たほうが良さそうやの。ウチはベッドに寝転がってお布団を被る。小焼くんの香りがする。うぅ、ドキドキして寝られへん。 ドアの開く音がした。小焼くんが戻ってきたの。 「けい? 寝たんですか?」 寝たふりしといたほうが良いんかな……。起きたほうが良いんかな……。ギシッ、とベッドが軋む。 「…………無防備過ぎるだろ」 耳元で低い声で囁かれて、背中がゾワゾワした。起きたほうが良い? これって、起きたほうが良いんかな? 頬を撫でられる。唇を指で押される。寝たふりしてるほうが、良さそう……。 「食べたい……」 どういう意味やの! 聞きたいけど聞けない。寝たふり、寝たふりやの! 唇を触ってた手が肩を撫でて、それから――……。 「……卑怯だな、これは」 胸にちょっとだけ手が触れたけど、すぐに離れた。ベッドが軋む。あれ? 小焼くんいなくなった? ウチは寝返りをうつふりをしつつ、布団の中から様子をうかがう。部屋の照明は消されてた。小焼くんは床に敷いたお布団に入ったみたいやった。なんか、呼吸が荒いような……。はぁはぁって……。考えたら駄目やの。きっと駄目やの。えっちなことは駄目なんやから、駄目やの! でも、でも、小焼くんがこんな風になってるのは、ウチの所為やの。ウチが、変に触ってしもたから……。 どうしてあげたら良いんやろ。ウチはスマホのバックライトを一番暗くしてお役立ちサイトを開く。えっと、えっと、これかな……。後ろから抱き着いて触ってあげたら良いって書いてた。後ろから触って……。小焼くん今どっち向いてるかもわからへんの。正面からだとドキドキ感があがってグッドとも書いてる……。そもそも、小焼くんがそういうことをしてるかもわからへんの。ちょっと息切れしてるだけかもしれへんから。それはそれで大変やの。どっちにしろ確認したほうが良い? でも、でも、でも! 「にゃあ」 「たま、一緒に寝るか?」 しらたまちゃんが来たみたいやの。小焼くんの声は普段と変わらへん。……ウチの気の所為やったんかな? でも、さっきまで呼吸が乱れてたような気がする……。 ぽすっ、と音がした。そういえば、ゴミ箱がベッドの横にあったの。やっぱり、そういうこと、してた? どっちなんやろ、わからへんの。寝たふりしてたばっかりにわからへんの。でも、起きてたら起きてたで、ウチ……どうなってたんやろ……? とすっ、と音がした。しらたまちゃんがベッドに乗ってきたみたいやった。布団の中に入り込んで、ウチの顔をぺろぺろしてくる。あ、化粧水! きっと化粧水を舐めてるの。駄目やの。猫の体に毒かもしれへん。 ウチはしらたまちゃんを抱えて顔から離す。布団が捲れて落っこちた。座ってた小焼くんと、目がばっちり、合ってしもた。
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