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 小焼くんはウチがじゃがいもと戦っている間にねぎを切ってたみたいやった。小皿に刻まれたねぎが乗ってるの。そんで、にんじんもいちょうの形に切られてた。たまねぎも細切りにされてあった。 「では、じゃがいもを切っていきましょうか」 「うぅ、なんか、上手くできるか心配になってきたやの」 「そんなに緊張するものでもありませんが」  ウチは包丁を握る。じゃがいもを左手でしっかり掴む。このまま切ったら良いはず。切ろうとしたら、小焼くんが後ろにぴったり立って、手に手を重ねた。 「猫の手にしておかないと指を切りますよ」 「は、はう」 「包丁もこの握り方だと指が痛くなります。こうですね」  心臓が爆発してしまいそうなくらいにドキドキいうてる。小焼くんに聞こえてないか心配になってしまう。それに、それに、くっついてしもてるの。女の人の胸が背中に当たった時の男の人の気持ちがわかるような気がするの。すっごくドキドキしてまうの。湯上りの小焼くん、すっごく良い香りがするし、ウチ、死にそうやの。  ドキドキのバクバクのままウチはじゃがいもを切っていく。小焼くんにこんなに密着されるなんて思ってないから、もう死にそうやの。きっともう少ししたらウチは死ぬやの。うぅ、恥ずかしいやの。  じゃがいもを切り終わったところで、小焼くんは耐熱ボウルにお肉とねぎ以外の野菜と焼き肉のたれ、水を入れてた。それから、ラップをふんわりかけて電子レンジに入れてた。 「これで十五分ほどしたら肉じゃがの完成です」 「お鍋でしやんの?」 「鍋でしても良かったんですが、これなら、お前でもできるでしょう?」 「……うん」  小焼くん、ウチのこと考えて簡単な方法でしてくれたんや。本当は調味料も混ぜ合わせてやるんやって言うてた。今日はウチが後で作れるようにって簡単な方法をしてくれたらしい。うぅ、なんか悔しくもなってきたの。ウチが小焼くんに胃袋をがっしり掴まれてしもてるの。ただでさえかっこいいのに、料理もできるなんて、どんだけハイスペックやの。ウチにはもったいないの。付き合ってくれてるのは不思議なくらいやの……。夏樹くんが言うには、今まででウチが一番長く付き合ってる子らしいの。すぐにお別れされへんくて、良かったの。  チーン! ってレンジが鳴ったので、ドアを開く。美味しそうな香りがしてる。小焼くんはゴムベラで中身を混ぜて、お皿に盛りつけた。その上にさっき切ってたねぎを散らして完成。レンジでお手軽に作った肉じゃがには見えへんの。お鍋でことこと手間暇かけて作ったように見える。ウチはスマホのカメラを起動する。 「撮るんですか?」 「うん! 撮っておくの!」 「……でしたら、これ、持ってください」 「は、ははは、はい!」  お皿を持たされて、小焼くんはウチのスマホを持って、ウチとほっぺたをぴったり合わせて自撮りした。料理もきちんと写ってるけど、ウチの顔が真っ赤やの。恥ずかしいやの。肉じゃがだけの写真も撮っといたけど、カメラロールを戻したら、顔の真っ赤なウチが残ってるから恥ずかしくなってしまう。小焼くんの顔が良すぎて、これまたしんどいやの。これが尊いって感情なんかもしれへん。とりあえず、タイムラインに投稿し……たら、あかんの。お泊りデートしてるって知ってるのはふゆちゃんと志乃ちゃんだけなんやから、他の子らに知られたら、きっとまた通知が止まらなくなってしまうの。それは困るの。ふゆちゃんに送っとこ……。 「汁はこちらで作っておきましたよ」 「ウチ、何にもできてないやの……。ごめんなさい」 「いえ、一緒に料理ができて楽しかったです。ありがとうございます」  小焼くんはウチの頭を撫でてくれる。嬉しいけど、ちょっぴり悔しいの。お味噌汁もいつの間にか完成してた。ごはんも盛り付けが終わってた。向かい合わせに座って、一緒に「いただきます」ってした。  肉じゃがを口に入れる。美味しい。少し不格好なじゃがいもやけど、美味しいの。切り方が悪くても、味がきちんと染み込んでて美味しいの。良かった。美味しい……。変な味やなくて良かったの。小焼くんと一緒に料理できて、本当に良かったやの。  歯磨きもしたし、化粧水も馴染ませたから、後は寝るだけやの。えっち、するんかな? ドキドキしてまう。  ふゆちゃんからメッセージの返信が来てた。「今日こそ進展しようね!」と犬が「がんばれー」ってしてるスタンプやった。  洗面所から小焼くんの部屋に戻る。上下スウェット素材のルームウェアの小焼くんはやっぱりかっこいいの。ドラマによく出てくる、負け知らずの不良のようなかっこよさがあるの。

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