「全サイズ揃ってるのはこれだけかな!」 「サイズを測らないといけませんね」 「えーっとね、これは六号かなぁ」 スタッフさんに左手を掴まれて、薬指にリングゲージを通された。ウチの左手の薬指のサイズは六号らしい。 夕顔くんはピンクゴールドでリボン形の二連リングを見てた。他にドクロのついたものや茨の巻き付いたトゲトゲしいものもある。ゴールドのものもシルバーのものもある。ちょっと甘辛い系のリングはそれだけやった。 「このデザインはどうですか?」 「可愛いと思うの。あの、その、ペアリングって……ウチ……」 「嫌ですか?」 「い、嫌やないの! 嫌やないけど……う、ウチ、ウチが、夕顔くんの彼女になって……良いの?」 「は?」 キッ、と鋭くなった目にビックリして、身体が跳ねてしもた。またウチの勝手な思い込みやった? 本当は、ペアリングやなくて、こう、なんか、別のものやった? 彼女なんておこがましかった? 不安になって、頬を涙が伝っていく。 「泣かないでください。困ります」 「あーあ、女の子泣かせて悪いんだー! お母さんに言いつけてやろっと!」 「言いつけるな!」 「もーっ、小焼くん、ただでさえ目力強いし、彼女よりも背がずうっと高いんだから、そんな言い方したら怖いでしょうよ。はいはい、彼女さん落ち着いてねぇ。小焼くんねぇ、きみの声がちょっと聞き取れなかっただけだからねぇ。聞き返しただけだから、そんなに怯えないであげてねぇ」 スタッフさんがウチをぎゅっとして、頭を撫でてくれる。安心して、だんだん落ち着いてきたの。顔をあげたら、緑色の縦に裂けた瞳でにっこり笑われる。このカラコンもかっこいいやの。 「ごめんなさい」 「謝らなくて良いよぉ。ほい、小焼くんにパース!」 「彼女はボールではないので、そんな扱いをしないでください」 「はいはい。もっと雑に扱ってそうなきみに言われたかないねぇ」 夕顔くんの腕を軽く叩きながらスタッフさんは笑ってる。ウチは夕顔くんの腕にすっぽりおさまってしもた。恥ずかしい。なんか色々恥ずかしいの。泣いてもうたから、メイクも崩れてもうてると思うし……。ウチは俯く、けど、また乱暴に顎を掴まれて顔を上げさせられた。真っ赤で綺麗な瞳と視線がかち合う。 「すみません。俯いて話をされるとよく聞こえないんです」 「ご、ごめんなさいやの」 「謝らないでください。怯えさせてしまった私も悪いので……。で、何と言いましたか?」 「あ、その、う、ウチなんかが……夕顔くんの彼女になっても、良いの? ウチで良いの?」 「は?」 「ふぇっ! ごめんなさい!」 「いえ、謝らないでください。……お前はさっき『はい』と言っていたと思うのですが……あれは私の聞き間違いだったんでしょうか? お前の声は可愛いから雑踏に紛れやすくて……」 「ち、違うの。それは違うの。本当に、ウチで良いの? ウチが、夕顔くんの、彼女で、恋人で、良いの?」 「恋人というよりかは、妻になって欲しいのですが」 「はうっ!」 「はいはい。小焼くん、そこまでにしておいてねぇ。黙って聞いてるほうも恥ずかしくなってきたからさ」 「ではこのへんで。どのリングにしますか?」 何でそんなにあっさり切り替えができるん? ウチは混乱してるのに。彼女やと思ったら、妻になって欲しいって言われて、求婚されてて胸が張り裂けそうなくらいにドキドキしてるのに。 今だって、腕の中にすっぽり入ってしもてて、夕顔くんの香りがいっぱいして……とても良い香りがして、火がついてるんやないかってくらいに身体が熱くなってしもてる。 くるっと、身体の向きを変えられて、リングケースを見せられる。どれも可愛いし、かっこいいデザインやと思うけど、ウチは夕顔くんが選んでくれたのが一番良いと思った。 「夕顔くんの選んだリボンのが、良いの」 「わかりました。それでは、これをお願いします。あとついでにリング入れの猫ストラップも」 「はーい。彼女さんのお名前は?」 「ウチ、けいっていうの」 「けいちゃんね。可愛い可愛い。それじゃ、バックヤードですぐ彫ってくるから、小焼くんは店番シクヨロ!」 「わかりました」 スタッフさんはバックヤードに引っ込んでしもた。店頭には夕顔くんとウチが残される。 店番を任されるって、夕顔くんどんだけ通ってるんやろ……。任して良いものなん? 「あの、夕顔くん」 「小焼です」 「ふぇっ!」 「名前で呼んでください」 「こ、こ、こや、こや、こここ、こや」 「落ち着いてくれ」 「小焼くん!」 「何ですか?」 名前で呼ぶの、胸がぎゅっとなるくらい緊張したの。でも、慣れな。この人が、ウチの、彼氏、恋人やの。 そして行く末は旦那様やの? あああ、こんなにかっこいい人が彼氏って、胸のドキドキが小焼くんに伝わってしまいそうなくらい、ドキドキしてまう。 「このショップにはよく来るん? スタッフさんと仲良しやの」 「ああ、あれは私のいとこです」 「いとこ?」 「はい。言い忘れていましたが、私の母はここのデザイナーです」 「ええええええええええ!」 「お前って、声を張れるんですね。驚きました」 小焼くんは少し目を見開いて声をこぼした。ぱっと見、そんなに驚いたように見えへん。 お母さんがデザイナーってかっこいいやの。だから、IMGの新作を身に着けてるんや……。それが似合うのもすごいの。かっこいいの。 ショップの前は色んな人が行き交ってる。たまにゴテゴテのフリフリの人も通っていく。甘ロリの人やから、ゴスロリには興味ないんか、すーっと行ってしもた。ガーリーな人達が見ていくこともあった。 小焼くんが本当に店番で「いらっしゃいませ」って言ってるのにドキッとした。不愛想って聞いてたんやけど、きちんと挨拶してるの。でも、笑顔やないの。お客さんに質問されても、丁寧に答えてて、デザインについても、きちんとコンセプトを言えるのもすごかったの。
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