「ありがとうございました」 「あ、あ、こちらこそ。奢ってもらって、ありがとうございましたやの。ウチが、お礼せなあかんのに……なんか……ごめんなさいやの……」 「……一つ聞いて良いですか?」 「は、はい! 何やの?」 「今、交際している相手――彼氏もしくは彼女はいますか?」 「お、おらへんの! 彼氏も、彼女も、いたこと、ないの……付き合ったこと、ないの……」 「こんなに可憐なのに……見る目がないんですかね」 ぼそっと呟かれた言葉に恥ずかしくてほっぺたが熱くなってまう。元から赤いのに、恥ずかしくて真っ赤になってまう。 ロビーで立ち止まって、夕顔くんはウチをじーっと見てる。 ウチは俯く。手遊びをしてしまう。こんなにかっこいい人にずっと見られてたら恥ずかしいやの。彼氏がいないかって聞かれたくらいやから、ふゆちゃんの言うてたように、チャンス、なんかも。ワンチャンありなんかも。 すっ、と伸びた手がウチの顎を掴んで、顔を上げさせられた。ドラマや漫画でよくある顎クイにしては、乱暴やの。でも、ドキドキしてまう。このままキス、なんて……ことはない。夕顔くんは目を細めた。 「人が話しているんだから、顔をあげてください」 「ご、ごめんなさい!」 「謝られても困ります」 「ごめんなさい……」 「それなら、私と付き合ってくれますか?」 「は、はい……っ、え?」 付き合って……? 付き合ってって? それってどういう意味やの? ウチが、夕顔くんの彼女? 夕顔くんがウチの彼氏? 思わず返事してもうたけど、うっかり、すごいことになってるような気がするやの。 ウチがちょっとぼうっとしてる間に、夕顔くんは歩みを進めてた。ウチは小走りで追いかける。言葉の意味は後で聞きなおさなあかんけど、まだ一緒におれるんは嬉しいの。色々話してみたいの。 夕顔くんは、ピアスもそうやけど、今日のパンツもIMGのやつやの。片足だけ編み上げデザインで、オシャレやの。上はシンプルなシャツやけど……引き算が上手で……かっこいい。 とことこ歩いて、ショッピングモールに着いた。ここには、ウチの憧れのブランド、アリトリも入ってるし、夕顔くんが身につけてるブランドショップも入ってる。ここではIROM MAIDENってショップ名になってて、GARDENとWONDERが同じショップ内に並んで陳列されてるから、値段の差にビックリしてまうの。 何処に向かってるんかと思ったら、IROM MAIDENに着いたの。ウチがIMWのワンピースを着てるからか、スタッフさんが寄ってきた。IMGの新作のジャンパースカートとブラウスを合わせたゴテゴテでフリフリで、かっこいいお姉さんやった。耳にも新作のピアスしてるし、口ピもしてるの。かっこいい。 「いらっしゃいませー! このワンピース可愛いですよねぇ。私も愛用してるんですよぉ。リボンもよくお似合いで、ヘアアレンジ可愛いですね!」 「あ、あ、あ、ありがとうございますやの」 「今日は何かお探しですかぁ?」 「え、ええと……」 「リングを見せてもらって良いですか?」 「あ! 小焼くんじゃないの! リングって自分用? それともこちらの彼女さん用?」 「ペアリングが良いです」 「オッケー! ちょい待ち!」 なんか、スタッフさんが急に馴れ馴れしくなったやの。やっぱり何回もここでお迎えしてたら、仲良くなるんかなぁ……。あれ? ペアリングって言うた? じゃあ、さっきの言葉はやっぱり、そういうことやの?
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