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 ホームルームが終わって、すぐ教室を出る。  小焼くんから校門で待ってて欲しいって、メッセージが届いたの。ふゆちゃんは漫画研究部の活動があるからそっちに行った。今は夏のイベントの新刊原稿の真っ最中なんやって。いつも面白い漫画を描いてるから楽しみやの。クラスメイトの千代ちゃんがこの前描いてたんは、無愛想な男の子と人懐こい男の子のボーイズラブってやつやった。最近ドラマでもよくやってる禁断の恋って感じですごくドキドキしたやの。  内容を思い出して、ちょっぴり恥ずかしくなりつつ、校門に向かう。校門には他の学校の制服を着た男の子や女の子が待ってた。皆今からデートに行くみたいやの。ウチも、デートやの。ルンルン気分で辺りを見回す。 小焼くん、校門で待ってて欲しいって言うてたけど……何処におったらええかな……。  ぼーっとしてたら、ギャギャギャッて、アスファルトを刻みながらバイクが目の前に止まった。 あわわ、ウチ、車道に出てた。怒られる! 「けい」 「ふぇっ、あ、小焼くん!」 「危ないですよ。迎えに出てくれるのは嬉しいですが」  と言いながら小焼くんはうちのサブバッグをひょいっと取って椅子の下に入れた。代わりにヘルメットを渡される。白い薔薇を赤く塗るトランプ兵が描かれてて可愛い。あれ? これ、アリトリのやの。一昨年くらいに、モーターショーか何かでコラボしてたやつ。 「小焼くん、アリトリ好きなん?」 「これは母がデザインしたものなので」 「え! 小焼くんのお母さんって、アリトリのデザイナーさんやの?」 「発注されたらデザインするくらいですね。母はもう個人ブランドを持っていますし」 「すごいやの……」 「とりあえず乗ってください。目立つので」 「は、はいやの!」  確かにバイクでこんなにかっこいい人が来たら目立つの。小焼くんの首にウチは腕を回す。しっかり掴まっとかな、風に飛ばされそうなくらいに、スピードが出てる気がするの。ちょっと怖いやの。  バイクが止まったのは、住宅街やった。何処に行くんやろ? 「あの、小焼くん、何処行くん?」 「先にバイクを停めてくるので待っててください」 「はいやの」  ヘルメットを小焼くんに渡して、代わりにサブバッグを受け取る。風が吹いて、薄桃色の花びらが飛んできた。桜が綺麗やの。お家に桜が植えてあったら、家でお花見できてえぇなぁ、なんて。 「お待たせしました。行きましょうか」  戻ってきた小焼くんはウチの左手をぎゅっと握る。お手て繋がれてビックリしたの。歩くのもウチに合わせてくれてるみたいでゆっくりやの。この前は小走りでついてったけど、今日は隣にいてくれてる。 何か香水でもつけてるんかな……フゼア系の良い匂いがするの。華やかなベルガモットの香りやの。なんか、小焼くんに合ってて、すごくドキドキするやの。  手を繋いだまま道を行く。何処に行くかまだ聞けてへん。このままお散歩でも嬉しい。今日の小焼くんはスキニーパンツにレイヤードスタイルのダメージシャツやの。これもやっぱりIMGのやつ。とっても似合ってて、かっこいい。 「聞き忘れてたんですが、パンケーキは好きですか?」 「大好きやの」 「それなら良かったです」  そう言って小焼くんはふわっと笑う。その笑顔が幼く見えて、すごく可愛かった。  隠れ家カフェなんやと思う。住宅街の路地裏にひっそりと、そのカフェはあった。ドアを開いたらカランカランって昔ながらの鈴が鳴った。大きな窓から射し込む光があったかい。可愛い雑貨がずらりと並んでる。すごく落ち着いた雰囲気でほっこりするようなお店やった。 「何にしますか?」 「あ、え、えっと、小焼くんはどれにするん?」 「私はミックスベリーソースにしようと思っています。しかし、レモンヨーグルトソースも捨てがたい」 「それなら、ウチがレモンヨーグルトソースを頼むから、半分こしよ」 「……名案ですね」  あ、また笑ってくれたの。可愛い。注文して待つこと十五分。ふかふかのスフレパンケーキが運ばれてきた。小焼くんの目が輝く。嬉しそうやの。崩れやすいからナイフを使わずにフォークを二本使って削ぐようにお召し上がりくださいって説明された。  レモンヨーグルトソースをたっぷりかけて、スマホで写真を撮ってから、ひとくち。 お口の中でとろけて美味しいの。ふかふかで甘くて、とろけて、美味しい。酸っぱさがちょうど良いの。  付き合ってるんやから、あれ、してみたいの。あーんって、食べさせてあげたいの。 ウチは一口分を削ぎ落とす。これを、小焼くんに……。 「小焼くん、あ、あーん、してやの」  ウチの声で小焼くんは口を開けてくれた。さすがに舌ピはしてないみたいやの。 少し尖り気味の歯が綺麗に並んでる。そーっとパンケーキを差し出したら、パクッと食べられた。あむあむ、お口が動く。 「レモンソースも美味しいですね。こちらのも食べますか?」 「うん! 食べるの!」  小焼くんが分けてくれたから口を開く。あ、よく考えたら――小焼くんが使ってるフォークやから、間接キスになる。さっきのも、ウチのフォークを小焼くんの口に入れたから、ウチがまた使ったら間接キスやの。気付いてしもたら恥ずかしくなってきて、味がわからへん。唐突にすっ、と伸びた手にびっくりする。ウチの唇の端をつい、と指がなぞる。生クリーム……それをパクッと小焼くんは食べた。 「生クリームがついていたので……。顔、真っ赤ですが大丈夫ですか?」 「だだだ大丈夫やの……」  やっぱり顔が赤くなってしもてる。頬に手を置いたらあったかい。すごくあったかいの。もう顔から火が出てるんやないかってくらいに熱くなってる。小焼くんは再び自分のパンケーキを食べ始める。口を開ける度にチラッと見える尖った白い歯がちょっぴりえっちに見えた。なんやろ、食べてる姿に、色気があるの。 ウチが止まってたからか、彼は首を傾げた。 「もう食べないんですか?」 「う、うん。小焼くん食べる?」 「食べます。――お前は小さいから、ハーフサイズにしてあげたら良かったですね。気が付かずにすみません」 「ううん。そんな、謝られることやないの」  小焼くんのお皿と交換する。綺麗に食べられたお皿にソースがちょっぴり残ってるくらいやった。とても綺麗に食べてるの。ウチ、少しぐちゃぐちゃに崩してしもたから、なんか恥ずかしい。

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