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 ドキドキしながら、時は流れて、土曜日。待ち合わせの場所に向かう。  IROM MAIDEN WONDERのワンピースを着てみたの。一昨年の春に発売された『御伽の鬼』シリーズの物。上品なフリルがたくさんついた編み上げワンピース。変やないかな、大丈夫かな。なんか不安になってきたの……。髪もハーフアップにして、同じシリーズの多重ベロアリボンもつけたけど、不安やの。 「すみません。待たせましたか?」 「い、今来たところやの」 「そうですか。……これ、IMWのワンピースですよね? 一昨年の春モデル『御伽の鬼』シリーズでしたか」 「そ、そうやの! あの、夕顔くんの、ピアスって……」 「IMGの今年の春の新作です。…………アリトリを着ないんですか?」 「ウチのお小遣いやと、足りへんくて……」  アリトリは、可愛くて大好きな憧れのブランドやけど、お値段が可愛くないから、フルコーデができへん。  お小遣いを貯めてやっと買えたのは、スマホリング、カーディガン、リボンだけ。それだけでもノベルティを貰えるくらいのお値段になる……。可愛いから仕方ないやの。可愛いにはお金が必要やの! 「では、行きましょうか」 「あ、あの、何処に行くの?」 「ホテルです」  や、やっぱり、そういうこと……するんかな……。ウチは恥ずかしくなって俯く。えっちなことは駄目やのに。ウチ、変な下着はいてきてるかもしれへんし……。どないしょ……。 「そこのホテルでスイーツビュッフェがあるんです。一度友人と行ったんですが、男だと入店拒否されました。カップルだと割引が効くし、特典でお土産を貰えるそうです。女性はミニぬいぐるみを貰えると聞きましたね」 「スイーツビュッフェ?」 「はい。そこの和菓子、特に豆大福が絶品だと聞いたので食べてみたくて。今ならロリータブランド――お前の持っているパスケースと同じブランド、アリトリとのコラボスイーツも置いています。もしかして、甘い物は嫌いですか?」 「ううん。好きやの」 「それなら良かったです」  と言う夕顔くんは少しだけ笑ってた。無愛想な人って聞いてたけど、笑ってくれたやの。  それよりも、ウチ、恥ずかしい勘違いしてたやの! もう! えっちなことは何一つなかったやの! 勘違いが恥ずかしくて、ウチはずっと俯いたまま歩く。  超高級ホテルに辿り着いてビックリした。ここのレストランのスイーツビュッフェって……テレビで何度も特集されてたくらいに有名で、けっこうなお値段やの……。ウチ、お財布にどんだけ入ってたかな……。  夕顔くんは予約してくれてたみたいで、すぐに席に案内されて、説明を受けた。説明が終わると、夕顔くんは、スイーツを取りに席を立つ。  遠くから見てもわかるくらいに、可愛いスイーツがたくさん並んでる。きらきらしてて、まるで、宝石のようやの。洋菓子も和菓子もいっぱい並んでる。向こうにコラボスイーツコーナーがあるみたいやった。どんなんが置いてあるか見るん楽しみやの。何処を見ても可愛いスイーツがいっぱいやの。 しばらくすると夕顔くんが戻ってきた。お皿に色んな種類のスイーツが乗ってる。豆大福だけで五個あったのが気になったけど、豆大福を食べたいから行きたいって言うてたくらいやから……好きなんやと思う。いっぱい取ってきてる姿が可愛くて、ちょっと笑ってしもた。 「荷物を見てもらっていてすみません。どうぞいってらっしゃい」 「あ、あ、いってきますやの」  夕顔くんが座ったので、ウチは自分のんを取りに立つ。可愛いイラストの描かれたコラボスイーツコーナーに向かうことにした。アリスが旅行鞄と鍵を持った可愛いイラストとAlice Tripのロゴ。アリスが持っている鍵を魔法の扉にさせば、色んな世界を旅行できる。どんな世界でも個性を出していけるようにっていうブランドコンセプトやったはずやの。コラボ限定のお洋服の予約販売もしてあった。とっても可愛いの。ウチもこんな可愛い服着てみたいなぁ……。白うさぎをイメージしたヘッドドレスに、お馴染みのサックスブルーのエプロンドレス。腰の上に白いボンボンがついてて、白うさぎのイメージも入ってるの。うさぎのシルエットとトランプ柄のタイツも可愛いの。おでこ靴も可愛い。全部可愛いの。高級ホテルとのコラボだけあって、普段よりもお高いやの。値段は可愛くないやの。 お洋服も可愛いけど、コラボスイーツも可愛い。既にアリスのプリンとハートの女王の赤いバラミルフィーユは残ってなかった。どんなんか実物を見たかったやの。チェシャ猫のクッキーも気になるやの……。  ギリギリ残ってたうさぎのビスケットと帽子のチョコレート、時計のチーズケーキを取って席に戻る。さっき夕顔くんのお皿に乗ってたんは何やったんかな? 「おかえりなさい」 「た、ただいまやの」  あんなに皿にいっぱい乗ってたスイーツが半分くらいに減ってる。食べるの早いやの。  夕顔くんはウチのお皿を見て、首を傾げた。何やろ? もしかして、食べ過ぎとか、思われた? 「アリスは見つけられませんでしたか?」 「あ、う、うん。見つけられへんかったの……」 「これ、どうぞ」  とんっ、と、ウチのお皿にティーカップが乗る。鮮やかな水色のリボンでかわいい陶器やの。 「スタッフに言えば、洗って持ち帰り用にしてくれるそうです。中のプリンは食べてしまいました。すみません」 「あああ、あの、謝られるようなことやないの! え、えっと、ウ、ウチ、これ、貰って良いの?」 「どうぞ。私は中身にしか興味が無いので。ちなみに、ロイヤルミルクティープリンでした。美味かったです」  夕顔くんはイモムシのシュークリームを食べながら答える。本当に中身にしか興味が無さそうやの。  ウチはスタッフさんを呼び止めて、アリスのティーカップをお持ち帰り対応してもらった。好きなブランドのコラボデザインやから、嬉しいやの。えへへ、嬉しくて顔がにやけてしまうやの。  スタッフさんとウチが話してる間にも、夕顔くんはまた取りに行ってた。まだ食べる気やの? 胃がもたれへんのかな? 太らへんのかな? 見た感じ、すごく……ムキムキ、やと思うの。鎖骨とか、すごくすごく、こう、えっちやの……。Vネックの七分丈シャツの下が気になってしまうやの。だって、座る時に、谷間が見えるくらいには、こう、ムキムキで、えっちやの……。  やがて時間が来て、レストランを出た。夕顔くんがウチの分も支払ってくれた。助かったけど、なんか悪いの。  ウチのバッグには、包んでもらったアリスのティーカップとカップル限定特典のお土産、チェシャ猫のミニぬいぐるみが増えたの。ブランドコンセプトの鍵デザインで、とっても可愛いの。

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