って、今から猫を見に行くって話やったと思うけど……もしかして、もしかしなくても、小焼くんの家に行くの? 夏樹くんが「両親は海外」って言うてたから、誰もおらへん家に? おまけに今、ウチ、小焼くんに……ゴム……渡して……もうた……。やっぱり、えっちなこと……する? どないしょ……。 ドキドキしながら、再び小焼くんのバイクに乗せてもろた。やっぱりスピードが速いの。ちょっぴり怖いの。ぎゅっと抱きつく。あ、胸、背中に当ててしもてる! でも、離れたら怖いの。でもでも、なんか悪い気がしてきたの。 ペット可のマンションかなって思ってたら、一軒家についた。小さな庭もある。小焼くんはバイクを隣のガレージに留めてきた。鍵をあけて、ドアを開いてくれた。 「どうぞ」 「お邪魔しますやの」 靴を脱いでお家にあがる。背後で鍵のかかる音がした。振り向いたら小焼くんと目が合うた。 「どうかしましたか?」 「あ、あの、鍵……」 「ああ、帰ったらすぐかけるようにしてるんです。忘れて寝たことがあって、母に叱られたので」 「そうなんやの……」 ウチが逃げないように、とかやない? 漫画やとよくあるシチュエーションやの。このまま玄関でキスして、そのままリビングのソファで、なんて……! というウチの考えは丸外れで、小焼くんはウチの横をすいっと抜ける。ウチは「お邪魔します」って言うてから靴を脱いで揃えた。先を行く彼の背中を追いかける。階段をとんとん上がって、ちょっとした短い廊下を歩いて、彼が開いてくれた部屋に入る。 綺麗に片付いた部屋やった。おっきなベッドもある。小焼くんの部屋なんやと思う。 「適当に寛いでてください。私は飲み物でも持ってきますので」 「はいやの」 そう言うと小焼くんは引き返していった。 寛いでてって言われても……何処に座るんが正解かわからへん。テーブルの高さから考えたら……ベッドなんかな。ベッドに、座ってて、良いんかな。 カバンを置いて、ベッドに腰かけてみる。ふかふかやの。ちょっと弾んで遊べるくらいやの。 「にゃっ!」 「あっ、しらたまちゃん」 布団の隙間から白い猫が顔を出した。くりくりのお目めが可愛い。同じ高さで見た方が良いんやったかな。ウチはベッドに伏せて、しらたまちゃんをじいっと見る。しらたまちゃんはもそもそ出てきて鼻をつんって合わせてくれた。やった! 挨拶してくれたやの。 「何してるんですか?」 「わっわわわっ!」 「……ああ、たまがそこにいたんですね」 呼び方は『たま』なんや……。一気に定番の猫の名前になったやの。 小焼くんはテーブルに紅茶を置いてくれた。自分のはコーヒーみたいやの。 ウチは恥ずかしくなりつつベッドに座りなおす。小焼くんが隣に座って、太腿の上にしらたまちゃんが乗った。ゴロゴロいうてて可愛い。ウチは思わず顎を撫でてた。ふかふかの毛並みで触り心地が良いの。 「あの、けい……」 「あ、撫でたら駄目やった?」 「いえ、この子を撫でるのは良いんですが……手が、私に当たるので……顎ではなくて頭にしてください」 「ふぇっ! ご、ごめんなさい!」 手を引っ込める。ああ、また顔が熱いやの。恥ずかしい。小焼くんはしらたまちゃんの頭を撫でてた。大きくて筋張った綺麗な手。爪が短い。水かきがあるような気がする。やっぱり水泳してると水かきもできるんかな。 それにしても、無言やの。何か話したほうが良いと思う。顔を上げたら赤い目と視線がかち合う。あ、これ、漫画でよくあるやつやの。キスするやつやの。ウチは目を閉じて、唇を尖らせてみる。 「何してるんですか?」 「えっ!」 「酸っぱかったですか? あまり紅茶をいれないもので……何かジュースを持ってきます」 と言って、小焼くんはティーカップを持っていってしもた。 キスやないの? あぁあ、ウチ、恥ずかしいことしかしてへん! 勘違いばかりやの! 男の人の部屋に入ったことなんてないし、どうしたら良いかもわからへん。ふゆちゃんにメッセとばしてみよ。あ、すぐに既読ついた。『えっち誘っちゃえ!』なんて軽く返信された。誘うってどうしたら良いかわからへん。それに、えっちなことは、まだ、駄目、やと思うの。でも、でも……! ふゆちゃんが女の子向けお役立ちページのアドレスを送ってきた。誘い方……これ…………。 「オレンジジュースで良いですか?」 「あ、ありがとうございますやの……」 小焼くんが戻ってきた。再びウチの横に座る。あのページのように、したら……良いの?
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