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「けい?」 「わわわっ、小焼くんおかえりなさい!」 「はい、ただいま。どうかしましたか?」 「な、な、なんでもないの!」 「それでしたら良いんですが……。――ああ、着替えたんですね。そのアリトリコラボ商品、けっこう激戦だと聞いています。似合ってて可愛いですね」 「あ、ありがとうございますやの」  小焼くんはウチの頭をなでなでしてくれる。それだけやのに、なんか顔が熱くなって、体も熱くなってしまう。それにしても、小焼くんはすぐにアリトリのものってわかってくれた。これも、もしかして、お母さんのデザインなんかな? 「これ、小焼くんのお母さんがデザインしたん?」 「いえ、母のオフィスにいる人がしていると聞きました。ですので、母は修正はしたかもしれませんが、デザインの基本には触れていないと思います」 「そうなんや……」 「それはそれとして、夕飯はどうしますか?」 「え、ええと、ウチ、作るの!」 「手料理ですか。楽しみです」 「えへへ、頑張って作るの」 「ですが、食材が冷蔵庫に残っていたかどうかですね……」  ふゆちゃんから「胃袋をがっしり掴んじゃおう!」ってお料理の本も貸してもらったし、簡単なものやったら、ウチも頑張ったら作れるようになった。小焼くんは見た目のイメージで、きっと自炊しやんとスーパーでお惣菜とか買ってると思うの。お外でいっぱい食べてるイメージがあるから、お家ではそんなに料理もしてないはず。ここでウチが頑張って料理をふるまえば、きっと、もっと、好感度が上がるはずやの。  小焼くんと一緒にキッチンに向かう。そういえば何回かお家に遊びに来てるけどキッチンには入ったことがなかったの。整頓された綺麗なキッチンやの。炊飯器もあるし、電子レンジもあるし、なんとオーブンまである! 小焼くんのお母さん、すっごく料理上手なんかな? これやったらケーキも焼けるやの……。ウチは上手く焼けた試しがないんやけど。  冷蔵庫を開く。タッパーが何個か入ってた。ウチは一個取り出して開いてみた。ミートボールが入ってたの。美味しそうな香りがする。 「ああ、それは昨日作った豆腐ミートボールですね」 「……小焼くんが作ったん?」 「料理はけっこう好きなんです。夏樹が私の練習メニューに合わせた、栄養バランスの良いレシピを持ってきてくれるので、それを作っています。鶏肉のミンチを使っているのでヘルシー且つ良質なたんぱく質を摂れるので、これはなかなかうまくできていると思います。食べてみますか?」 「じゃあ、ひとくちだけ……」  小焼くんからお箸を貰って、ミートボールを一個口に放り込む。冷たいのに、ふわふわでジューシーでとっても美味しい。あっためたらきっともっと美味しいんやと思う。……でも、どうしよ、こんなに美味しいのを作れる人に、ウチ、料理出せる自信が無いの。まずいって言われてしまいそうやの。 「作り置きのおかずを退けたら、これだけ食材が残っていましたが……、これで何か作れますか?」 「え、えっと……、ええっと……、あ、あの、小焼くん……」 「何ですか?」 「ウチ、あんまり料理が……得意やなくて………小焼くんからしたら、すんごくまずいものになってしまいそうやから……小焼くんの作り置きのおかずで良いと思うの」 「しかし、せっかくですし」 「だ、駄目やの! ウチ、すっごくまずい料理しかできへんの! 小焼くんがお腹壊してしまうの!」 「腹を壊すのは困りますが……それなら、一緒に何か作りますか。作り置きを増やしておきたいところですので」 「はう!」  そうは言っても、料理は本当にドがつくくらいに下手やのに。付け焼刃の知識だけじゃ、きっと変な味のものしかできへんの。小焼くんは調理器具を準備している。やかんでお湯を沸かして、熱湯消毒をしてた。 一般家庭で熱湯消毒なんて普通するん? そんなんしてる人、見たことない。駄目。これは駄目やの。ウチが絶対に料理をしてはいけないの。小焼くんの迷惑になってまう。 「小焼くん、ウチ、見てるだけで――」 「一緒にするの嫌ですか?」 「……一緒にするの」  小首を傾げてそんなことを言われたら、一緒にするしかなくなるの。小焼くんはエプロンをつけてた。なんか、すごく可愛いやの。ガタイの良い人がエプロンつけたら可愛くなるって不思議やの……。ギャップ萌えってやつになるんかもしれへん。こんな時、千代ちゃんがいたらすごい早口で説明してくれると思うの。写真撮らせてもらおっと、ウチはスマホのカメラを起動して、小焼くんに向ける。 「小焼くん、撮るの」 「私のエプロン姿を撮ってどうするんですか?」 「思い出やの。えへへ」 「それなら、私も撮って良いですか」  小焼くんはスマホを手にする。何枚か撮られたと思う。ウチ、何にもしてないんやけど……良いんかな……。それから手を丁寧に洗ってるの。ウチもスマホを置いて、手を洗う。 「では、早速作っていきましょうか」 「お料理番組みたいやの!」 「そうですね。今日は、肉じゃがを作ります」  小焼くんはじゃがいもとたまねぎとにんじんを流し台に転がす。そんで、ウチにピーラーを渡してきた。 「皮を剥いてください」 「はいやの!」  皮むきやったらウチにもできるの。にんじんを洗ってから、皮を剥いていく。順調にぴろろろろって細長く皮が剥けていくの。小焼くんはウチの隣で包丁を使ってたまねぎの皮を剥いてた。たまねぎのお尻のところを三角に切って、芯を切り取って、そこからペリペリ剥がしていってるの。すごい、あんなに簡単に綺麗に剥ぐことができるんや……。ウチも早く剥かな。じゃがいもを洗って、皮を剥いていく。緑色になってる部分があるの。 「緑の部分は腹を壊すから厚めに剥いてください」 「はいやの」  厚めに、厚めに……。こんな感じで大丈夫かな? 小焼くんを見たら、水をはったボウルを準備してて、目で合図してきたので、じゃがいもを入れてあげた。 「よくできましたね」 「うん!」  まだ皮を剥いただけやけど、褒められて嬉しい。

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