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郵便受けには夕刊がびっちり入っている。あんまり窮屈で取るのにもたもたしていると「あの……」と後ろから声をかけられた。筆者、すごく驚いた。 もたもたと郵便受けをあさっているのを怪しいと思われたのかもしれないと思って、その時のために言い訳を一瞬のうちに8個も考えた。 そんな筆者の心配も杞憂で、その声の主は弟の友人らしかった。筆者には弟がいる。2月生まれの、中学一年生である。 弟は今日、学校を欠席していた。昨日、激辛ペヤングを食べたせいだろう、お腹の調子が最悪だそうだ。 弟の友人は今日配られたプリントを筆者に渡して帰っていった。筆者はクリアファイルに挟まれたプリント類に混ざって、一枚の小さく四つ折りにされた紙を見つけた。 これには筆者、見覚えがあった。紙には「この紙を制服の胸ポケットに入れる」と書かれていた。 あれは筆者が中学生一年生のときだ。登校するとこの紙が下駄箱に入っていた。 書かれていた通り胸ポケットにしまい、その日は友人たちとこの紙が何なのかについて語り合った。いくら話し合ってもよくわからなかったので「お守り」ということにした。 翌日、授業中に蛍光灯がチカチカと点いたり消えたりを繰り返した。ひとつだったそんなに驚かなかったかもしれないが、教室の全ての蛍光灯がタイミングを見計らったようにチラついて不気味だった。 そして、とうとう蛍光灯は火花を散らすまでになった。それは明らかにおかしかった。初めての怪奇現象に筆者とクラスメイトは「え、え?」「なぬぅ」「ファーー」とおったまげた。 そのときだ、みんなの胸ポケットからゆらゆらと紙が抜け出し宙を浮いたのは。筆者のも例外なく浮いた。 蛍光灯の火花が紙に燃え移り、人数分の紙が狐火のようにふらふらと揺蕩った。 クラスはどよめきと怯えが入り混じっていた。過小に表現しても教室はパニックだった。しかし先生だけは「おお、今年ももうそんな時期か」と呑気で、どうやらこの学校の恒例行事らしかった。みんなは納得していたが筆者は「え、そんなことある?」と思っていた。 筆者は現実的な人間であるため、ひとりでに宙に浮く紙なんか信じられなかった。が、筆者は日本の美徳である右にならえの精神を重んじているのでみんながそういうのなら、とそんな疑問もすぐに消え失せた。 あの時は勝手に胸ポケットから飛び出した紙に驚いたりもしたが、翌年からは「おお、もうそんな時期か」と感嘆を漏らした。中学生の環境順応力、恐るべしである。 ということなので、弟の紙はこっそりと制服のポケットに差し込んでおいた。明日、元気になった弟は意気揚々と学校に行き、入れた覚えのない紙が胸ポケットからふわふわと飛び出しさぞ驚くことだろう。

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