アンコールの演奏が終わると、会場にいる聴衆全員から大きな拍手が起きた。 　会場といっても、そう大きな所ではない。地方都市の駅前にある、ノスタルジックな雰囲気漂うカフェ。聴衆も満席とはいえ三〇人いるかどうか、といったところか。 「最後までご静聴くださいまして、ありがとうございました」 　店内のムードに合うよう、黒基調のワンピースを纏った那岼なゆりは、笑顔で聴衆にお礼をする。 「さて」 　那岼なゆりとファン、主催のカフェオーナーとの会話もひと段落したと思われたので、いちばん奥で聴いていた私は、さりげなく席を立つ。 「そろそろ車回すか……那岼なゆり、今日は〆ラーするとか言い出しそうだな」 　開演前は、この季節最後であろう雪がちらちらと舞っていたが、それも止んでいた。カフェの前にある公園の木々は、冬将軍最後の猛攻に耐えつつ、いまにも開きそうな赤い蕾を、枝いっぱいにつけている。 　季節は、もうすぐ春―― （ストリング・クロス　完） ************************************ 【作中に登場した曲の一覧（登場順）】 １　情熱大陸（葉加瀬太郎） ２　Summer（久石譲） ３　Hard to Starboard （ジェームズ・ホーナー） ４　シェエラザード 第1楽章（リムスキー・コルサコフ） ５　きらきら星変奏曲KV265（ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト） ６　夜想曲 第20番（フレデリック・ショパン） ７　ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調作品27-2（ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン） ８　夢のあとに（ガブリエル・フォーレ） ９　ヴィオレンタンゴ（アストル＝ピアソラ） １０　EnglishMan in NewYork（スティング） ************************************ 　この物語はフィクションです。作中登場する人物・団体・出来事・固有名詞などは、実在する実際のものとは一切関係がありません。ただし例外として、楽曲名については実在するものを想定して引用しています。また、特定の性別・価値観・思想・行為について、差別的な意図や考えは全くない作品であることをここに宣言します。