「悠川白水さんの白水って、ペンネームの由来はなんですか?」 ここから話がはじまるのが、実は今作『ストリング・クロス』だったりします。 創作文芸の単独サークルとして独り立ちした2011年、書きたい作品は5つありました。 ひとつは、好きな趣味ことミニ四駆をテーマにした物語。これは、イラストを描いてくれたがっかりうどんぬ氏、諸先輩レーサー達の助力。同人作家の諸先輩たちの後押しもあり、ミニ四駆の公認競技会の、今は失われし煌めく世界を書き留めた記憶、そして未来へと遺す希望の物語『ファイナルラップ!』として、結実させることができました。 ふたつめは、純粋に誰でも楽しめる、エンターテイメントノベル。これも、電書魔術プロジェクト・タブレットマギウスの企画の後押しを受け、みやび氏という素晴らしいイラストレーターさんとの出会いも重なり、誰もが楽しめるマルチロールなエンターテイメントノベル『ライジングパトス』として心ゆくまで、思う存分に表現することができました。 3つめは、お酒と音楽をテーマにした、ロマンチックな小説。4つめは、戦記文学。『蒼と雲の彼方で』よりもさらに深い物語で、戦争と平和を問う物語を。5つめは、時代小説を書きたい……というのが未来の目標として持っています。何十年かかるか分かりませんが…… 同人作家として活動する際に、新しいペンネームが必要と考えました。 当時、とても良くしてくださったピアニストに、"泉さん"という方がいらっしゃいました。2019年2月現在では、もう表立ってのコンサート活動はされていないのですが、 「ジャンルは違うけど、芸術の道を征くなら、私も泉さんのように、多くの人に感銘を与えられるような表現者になりたい」 という意志を込め、彼女のお名前を(勝手に)頂戴し、泉の一文字を割って白水とした、というのがペンネームの由来だったりします。 そんな白水さんの、書きたかった物語の3つめ。それが今回の『ストリング・クロス』です。 音楽や楽器をテーマにした作品は、既に世に多くあるのですが、“演奏者(弾き手・歌い手)の視線から描かれた物語”ではなく、純粋に“聴衆(聴き手)の視線から描かれた物語”は、ジャンル内としてはかなり希有であり、ヴィオラを主楽器とした物語は、商業誌を俯瞰しても恐らく初の試みだと聞いています。今作の特筆すべき大きな特徴として、挙げても良いかと思います。 また、音楽の演奏シーンをいかに表現し、曲の魅力をシンプルにどう表現するか、という個人的な課題も設定しました。幾つか試行錯誤もしましたが、音源を聴いたそのままの印象を、シンプルな短い言葉をつなげて音を写生していく、という方法に落ち着きました。うまくできたかは分かりませんが。 この作品『ストリング・クロス』を書くことへの挑戦権は、人生を削りながら、ときに楽しく、ときに苦しみながら紡ぎ出していった、数多の楽器演奏者の音が与えてくれたものです。 そして『ライジングパトス』に続き、画竜点睛、流麗なイラストで作品に最後の命を吹き込むべく、みやびさんに再びお力添えをいただくこともできました。 数多くの人々から頂戴したかけがえのない作品への挑戦権、大切に使えたのかは、私にも実は分かりません。 作品が面白くなくても構いません。でも読み終えたとき、 「へえ、生の音楽、今度聴きに行ってみようかな」 「うん、生演奏を聴くのはやっぱいいものだよね」 たとえ一瞬でも。読んだ方にそう思っていただければ。 そして、実際に演奏をされている人には、 「よし、明日もまた聴いてくれる人のため、頑張って弾こう(歌おう)」 たとえ僅かでも。演奏者としての誇りと希望を感じていただければ。 作家として諦めかけていた悲願のひとつがまた叶ったと、胸を張れる気がします。 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。 ※このあとがきは、2018年2月に書かれたものを一部修正したものです。 【2021年9月追記:お読みいただいた皆様へ】 2021年9月末現在、COVID19系統の疫病が国内を含め世界的に蔓延しています。生演奏のコンサートやライブの参加は、主催者の対策状況によっては高い罹患の危険があります。 コンサートやライブで罹患者が出た場合、演奏者・聴衆・医療従事者等に多大な迷惑となり、また音楽ジャンルを問わず、演奏者への社会的な風当たりも強くなります。 そのため本作品は、罹患リスクより優先して、コンサートやライブ等を観覧されることを推奨するものではありません。 コンサートやライブに行かれる際は、社会状況を確認いただき、行き帰りも含め罹患リスクを十分に吟味して行動決定をお願いします。演奏者の活動のためにも、罹患防止を最優先にご協力下さい。 また、演奏者の皆様にも、聴衆の皆様に、罹患リスクを負った上での参加を促すような雰囲気作りはご遠慮いただき、聴衆が罹患リスク回避の行動を優先されることに、ご理解とご配慮をいただきますよう、謹んでお願いします。
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