カウンターの真ん中あたりの席に座った女子高生2人が顔を寄せ合って、小声で話している。学校帰りに時々寄ってくれる常連さんだ。何を言っているかは聞こえないが、いつも彼女たちの明るい声が店を楽しい空気で包んでくれる。 千帆は洗い終えたカップを見つめて顔を緩ませ、カップをカゴへと静かに置いた。 楽しそうに友人同士で話していた女子高生が少し身を乗り出すようにしてくる。 「あの、ココアに生クリーム乗せて、そこにチョコレートソースとかオレンジソースとか乗せるココアをメニューに加えてもらえませんか。私たち、このお店で飲みたいなって思って」 リクエストするのがおこがましいとでも思っているのか、周りを気にして左右に目を動かしている。声も千帆が前かがみになって、やっと聞こえるくらいの大きさだ。 「今、試作してるところなんです。試作品ができたときには試飲しに来てもらえませんか」 そう言うと、2人は顔を見合わせて両手を握り合い、座ったまま軽く飛び跳ねている。 こんなに喜んでくれるなら、もう少し早く考え始めればよかったと反省してしまう。 女子高生たちは、試飲するのを楽しみにしてると言って、カウンターに代金を置いた。 膝上丈のスカートにモコモコの半コートを羽織った2人が店から出ていくのと入れ替わりに、角田が入ってきた。迷いなく、一番奥のカウンター席に向かう。 脱いだコートを壁にあるハンガーにかけた。 「千帆ちゃん、今、話しても大丈夫かな」 カウンター席しかない店内に座っているのは、営業途中に休憩で寄っただろうサラリーマンとお喋りに夢中な近所の奥様3人組だけだ。どの人にも給仕は終わっている。 千帆は角田に水を差しだしながら、口角を上げて返事をした。 「1週間ほど前だったか、会社で損な役回りさせられてるって話してた女性いたの覚えてる? 堅物黒縁眼鏡の彼女。たまたま会ってさ」 堅物黒縁眼鏡って悪口にしか聞こえない。こみ上げる苦笑いを抑えて訂正する。 「中井優美さんですね」 名前を思い出したらしい角田は優美の話を聞かせてくれた。
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