朝の愉しみ
朝の一杯③

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店内は別世界だった。扉一枚が空間を隔てていた。ドアはしっかりとした造りになっており、それなりに重いはずだが、みのりはちっとも気にならなかった。 駅ナカの店ということもあってか、店のデザインはシンプルだ。ホワイトを基調とした床に、木目のテーブルと椅子。二人がけのテーブルが多い中、四人がけのテーブルもいくつかある。入口の脇には、軽食が入ったショーケースと、メニュー表。二人がけのテーブルに荷物を置き、みのりは席をたつ。 「ホットコーヒーMサイズと、BLTサンドをお願いします」 定番メニューを注文する。BLTサンド、つまりベーコンレタスサンド。ベーコンのカリッとした食感と程よい塩気がやみつきになる。レタスのとの相性もよく、朝のお供に頼むことが多くなっていた。 席に戻り、コーヒーカップに口をつける。芳しい香りが広がる。コーヒーの匂いだ。ミルクを入れず、ブラックのまま飲む。サンドイッチも温かい方が美味しいので、トーストしたてを食べてしまう。お腹いっぱいだ。 正直、社会人になるまでコーヒーは美味しくないと思っていた。ただの苦い飲み物と思っていたが、通勤の行き帰りにお店に寄っていたら、いつしか好きになっていた。きっとコーヒーの香りと苦味が私の目を醒ましてくれるからなのだろう。ちょっぴり早起きをして、空いている電車に乗って得られる朝のひととき。この瞬間だけは何も気にせずにいられる。駅ナカなのに、駅の喧騒とは無縁の店内。リラックスできるBGMミュージック。無駄を省いたテーブルや椅子。コーヒーを飲む時の雰囲気をみのりは気に入っている。 さて、コーヒーも残り一口になってしまった。最後になって、みのりはミルクをカップに注ぐ。ミルクたっぷりの最後の一杯をいただくのがお楽しみなのだ。波紋が広がったカップは、またたく間に空になった。 時刻は朝八時。出社時刻まではまだ余裕があるが、早めに行動するに越したことはない。みのりは席を後にした。ドアを開けて駅構内へと進む。 寄り道は何も帰りにしなくても良いのだ。楽しみは一日の始めに限る。仕事は早めに切り上げる。業務の算段、やるべきことの優先順位を付けながらみのりは会社に向かった。彼女の足取りはしっかりと前を向いていた。 朝の一杯が終わった。 駅の外には、高層ビルが立ち並ぶ。ビルの隙間を抜けると緑の庭園が広がる。どこまでも青い空、だった。 【Fin】

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