朝の愉しみ
朝の一杯①

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からりと晴れた朝は気持ちがよい。 大抵の人は、それだけで気分が晴れるだろう。しかし、彼女の場合はそれだけでは足りない。 そう、一杯飲むまでは。 とある住宅街のマンションの一室。ベランダに接するその部屋は、東に面している。東向きであるが故に、朝はとてつもなく明るい。今日も、いつものお約束と言わんばかりに太陽が顔を出し、部屋中に光が溢れていた。 部屋の中には、丸みを帯びた布団がある。朝日に照らされ、丸い布団はシルエットを変え、真っ直ぐに伸びてもぞもぞと動いた。掛け布団代わりのタオルケットから、ちらりと頭が見える。乱れた髪と寝ぼけ眼が布団から覗く。布団の主は、まだ完全に起きてはいないようだった。 数分後。燦々と降り注ぐ朝日を背にして、布団の主は身体を起こす。ひとつ大きなあくびををして、彼女はようやく布団から這い出した。 彼女はゆっくりとベランダに近づき、カーテンを開けた。真っ青な空が目に入る。背伸びをしながら、いつもの見慣れた町並みを眺める。まだ活動時間とはいえない早朝、人目を気にせず腕を回す。道行く人の姿はまばらだ。 重い頭を抱えながら、彼女は洗面所で顔を洗う。ひんやりした水が心地よい。洗顔は冷たい方がリフレッシュ出来る気がする。口をゆすいで、歯磨きをし、水を一杯飲む。こうして寝ている頭を無理やり起こしていく。ラジオをつけながら、通勤用の服を選び、身支度を進める。いつもの制服化したビジネスカジュアル。ファッション雑誌を買ったこともあったが、読むのに疲れてしまい、結局合わせやすい定番アイテムを選ぶことになる。朝食はとらない。 アナウンサーの声を聞きながら、今日の天気を確認する。開けていた窓を閉め、靴を履き、玄関へと向かう。 ドアノブを掴む。ガチャリという音がして、ドアが開く。彼女の細い手首がくるりと回る。バタン、とドアが閉まる。コツ、コツ、と足音が遠ざかっていった。 やがて彼女の姿は雑踏に溶けてゆく。2無数のノイズが混じる中で、彼女の足音は軽やかに跳ねていく。 なぜか。 朝の一杯があるからである。 彼女、もとい朝倉みのりの一日はこれから始まる。 朝のお楽しみを味わうために。 みのりは目的地へと向かっていく。

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