螺旋
1-8

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 恭一郎と吉川が付き合い始めたのは高校1年の7月だった。 高校に入学して最初の期末試験が終わり、あとは夏休みを迎えるだけ。学校全体はその解放感で満ちていた。  午後から小降りの雨が降り始めた放課後、傘を持っていなかった吉川は友人の原口えみの傘に入れてもらっていた。その数メートル先に恭一郎が歩いている。それをじっと後方から見ている吉川、いきなり原口の傘から無言で抜け出した。 「磯村くん、入れてよ」 「えっ?」 横からいきなり声をかけられて首の方向を変え吉川と目が合った。右手を頭に乗せ傘を持っていないことをアピールしていた。なぜ俺の傘、という疑問はあったがいつまでも濡らせておくわけにはいかない。 「わかった、いいよ」 「やった」  肩と肩がくっ付き合う。それだけでドキっとする恭一郎。何が起きているのか理解が追いつかなかった。少し沈黙の間があった後に。 「磯村くんって彼女ほしいの?」 なぜだかいないことが前提であったのが気になったがいないのは間違っていなかったのでそれは飲み込んで質問に答えた。 「そりゃあ、まぁ」 「どんな女の子がタイプなの?」 「明るくて、優しい子?」 「なんかありきたりな答えだね、外見とか気にするの?」 「あぁ、背は低めがいいかな? できれば160センチ以下で」 「ふふ、ごめん、私、157」 さすがの恭一郎も少し信じられなかったが察した、だが聞いておきたいことがあった。 「吉川さんって一馬、好きなんでしょ? 俺の傘なんて入っていいの?」 「一馬は、憧れの人なんだよね。私には興味ないみたいだし」 「福西さんが好きらしいからね、その福西さんも一馬に興味ないみたいだけど」 「磯村くんは好きな人いるの?」 「いるけど、最近いたになってしまった」 「えっ、どういうこと」 「もう付き合っている人がいるんだよ。この前、手を繋いで帰るところを見た」 「うわ、それショックだね。誰と誰なの?」 「それは言わないということで」 「えー、ってかもう少し入れてくれないと私、肩が濡れるんですけど」 「あぁ、ごめん!」 急いでどこも濡れないように吉川の方にもしっかり傘を入れる、そうなるとますます二人だけの空間ができたようでこの状況に鼓動は速まった。  他愛もない雑談が続き駅へ着いた。吉川は一足先に改札内へ入って別れを告げる、手を振る彼女を見送る恭一郎。しばらく立ち止まりこの余韻に浸る。なんだか悪くない気分であった。次話せるのはいつだろう、そう思った。 「なに、お似合いじゃん。付き合っているの?」 「そういうわけじゃ」後ろから見ていた同じクラスの男子が声をかけてきた。    夏休みをあと3日後に控えた放課後。恭一郎は広瀬彰ひろせあきらと駅前のゲームセンターで今、大流行のアーケードゲームをやっていた。  午後18時を回るところでそろそろ帰ろうと二階から一階へ降りた時にたまたま原口と吉川とプリクラコーナー付近で遭遇した。 「あっ、広瀬じゃん」 最初に気がついたのは原口達の方であった。広瀬と原口は普段からよく話をするので思わず会話が弾み、恭一郎と吉川は置いてけぼりという様相であった。  原口達はサッカー部に所属している橘一馬たちばなかずまを部活が終わるまで待っているというのだ。原口もまた橘に恋心を抱いている。18時頃から終わる部活が出始めるためそろそろ練習が終わっていないか学校に戻ろうという。 「よし、じぁあ俺も一馬を弄ってやろうかな」 「あっ、俺は帰るわ、見たいテレビがあるから」状況からして空気を読めと思ったが広瀬に止めろとは言えなかった。 「私も帰ろうかな」吉川も帰ると言ってきた、これはまさかと思う恭一郎。  ゲームセンターの前で二手に別れる。結局、広瀬はついていった。原口はどう思っているだろうと想像するとそれはそれで傍観者は面白かった。  吉川と二人っきりになった。顔を見合わせる。 「かえろっか」 「うん」 しばらく無言が続く、吉川とは一緒のクラスではないのであまり気軽に話せる仲ではなかった。 「もう直ぐ夏休みだね」 あの日と同じように吉川から話をかけてくれた、この気まずい空気をなんとか打破したいと思っていたのでありがたがったがなんだか吉川ばかり申し訳ないとも思う。 「うん、そうだね。なんか夏らしいことするの?」 「その予定はないかな、彼氏いないし」 「あぁ、そう」 彼氏という単語に引っかかったのが分かり、誤魔化すように笑いながらそう言った。 「ねぇ、私はどうかな?」 「えっ?」唐突にその言葉は出た、ほぼ同時に歩みを止める二人。 「いや、一馬が駄目だからとか、そういうのじゃなくて私、磯村くんも前からかっこいいと思っていたんだ。磯村くんのクラスだと一馬にどうしても目がいってみんな気づいていないけど」 「……本当に、俺なんかでいいの?」 「うん、磯村くんも彼女ほしいんでしょう? でも好きな人はもう彼氏がいて、だったら」  自分と付き合いたくて、女子の方からここまで言わせていることに驚愕している。いつから俺はこんなにモテるようになったのか、急に訪れた女性からの告白。どうせ叶わないだろうと胸に秘めたままにした想いの数々もざわついているようだった。渾身の恋文を送っても振り向かれることはなかった自分には棚からぼた餅のような出来事。 「うん、じゃあ付き合おうか」 「ほんとうに?」  吉川は満面の笑みを浮べ抱きしめた。女性から抱きつかれた、手を繋ぐことさえ記憶は幼稚園のお遊戯会で踊ったダンスの時だった。自分には権利がある、そう言い聞かせ吉川を抱きしめかえした。女性の髪の毛、背中、未知の遭遇のようにその感触を確かめていた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません