螺旋
1-7

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 八月に入った。バイトを終えて、たまたま同じタイミングで店を出る内田と途中まで一緒に帰ることにした。 「きょういちは卒業後の進路決まった?」 この時期、同い年の人と話すと嫌でも出てくる話題だった。 「まぁ、まだ学校決めてないけど進学だろうね、うっちーは?」 どっちもする気がないとは言えない、かといって就職するは有り得ない。一番無難なのは進学であった。 「俺は就職するんだ、もう決まっていて父さんが経営しているお店で」 「そうなんだ、どんなお店なの?」 「六本木にあって、バーみたいなところかな?」  そこまで話したところで別れる、あまりこの手の話はしたくはない恭一郎には深いところまで話が及ばずに済んで助かった。  右ポケットに入っている携帯が震える、着信を知らせるバイブレーションだった。メールがきていた。  送り主は、吉川真里だった。  その場で固まる恭一郎、とりあえず先ずは家に帰ることにした。逃げるように、振り切るように自転車を走らせた。だが夜空に輝く月のようにそいつはどんなに速く逃げても平然とした顔で追っかけてくる。  家に着きまずは夕飯を食べた、風呂にも入った。歯も磨きあとは寝るだけ。まだあのメールの内容は見ていない、携帯の画面に未読のメールがあることを知らせるアイコン。  次はどんな内容のメールなのか、さすがに二度も返事を返さない怒りのメールの可能性が高そうだと予想した。吉川が怒ったらどうなる、喧嘩なんてしたことがないのでどんな感じになるのか想像するしかなかったがそれは恭一郎が抱える後ろめたさでどんどん膨張して、とんでもない恐ろしい人物になっていた。  やっぱりこれに関してはけじめを着けるしかない。決死の覚悟でそのメールを開く、こんなにも開くのが怖いメールは初めてであった。 『そういえばCDずっと借りっぱなしだったね、返したいからついでに久しぶりに会おうよ!』  この内容は予想外だった。また返事を返さないことには触れないのか。なんだかそれはそれで気持ち悪かった。吉川の気持ちが分からない、彼女である自分をここまで放っておいて怒りを覚えないはずはない。それを変に気を遣わず正直にぶつけてくれた方がもしかしたら楽になれるのかもしれない。今度は俺を叱ってくれと言わんばかりの気持ちになり、心境の変化が激しかった。どんな気持ちでこのメールを送ったのか分からないが返事はしよう、別れの。CDはもう返してもらう必要はない。  もう直ぐ日付けが変わる、多少遅くても夏休みだし問題ないだろう。なぜだか目上の人に送るように敬語になってしまった。とても別れるとはいえ彼女に送るメールではなかったがこちらの方がなぜかしっくりくる。せっかく自分を選んでくれた吉川には申し訳ないことをした、調子に乗らず中学生の時のようにおとなしくしていればこんなことにはならなかったかもしれない。これは身の丈に合わないことをした罰か、変わったとしてもやっぱり自分は静かに、教室の隅の窓から校庭を見ていた方が性に合ってたんだ。  いよいよ送信ボタンを押す、無表情でも胸の高鳴りは最高潮であった。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません