螺旋
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 一つ、それも、もしかしたら一番重かったものが肩からおりたような気がする。吉川と別れるという選択肢しか頭になかったが、また理由はどうであれ関係を繋ぎ止めた。そうなった事によって体が軽くなったのは事実だ。やはり逃げたくなるような事にもしっかりと向き合い解決していく、そうすることにより逃げるよりも良かったと思える結果が得られた。あの日、直接出会っておいて正解だった、寸前の所で思いとどまったのは今振り返ってみればファインプレーである。  そんな一仕事終えたような気分で今日は中学生時代の友人、永井裕太郎ながい ゆうたろうとこれから磯村の自宅に招き入れて会うことになっている。吉川の時もそうであったが誰かと会って話しをするというのは、学校に行って同級生と会う機会がなくなってしまった今の磯村にとって、それだけで楽しみだ。ここまでの事情を知らない者であれば後ろめたさもないので尚更。  永井とは中学生の時に借りっぱなしであったゲームソフトを返すという名目で今日会う。夕方5時頃に訪れると言っていたのでもう来てもいい時間帯であった。部屋の中を見られても恥ずかしくない程度に片付けて永井を待つ。どうやら今度は格闘ゲームに分類されるジャンルのゲームソフトをやりたくなったので貸してほしいとも付け加えたれていた。ということはまたいつかそのゲームソフトを返しに来る時もくるわけだ。中学校を卒業後、よく遊んだ友人とは今ではすっかり連絡も取っていない。それはきっと高校の友人もたとえ学校を変えることなく卒業できたとしても同じことになるだろう。つまりはそんな関係性の人が殆どだという事だ。別にあの時、もう会うこともないと気に病む必要もなかった、遅かれ早かれそうなっていたということだ。  そんな中で永井とは高校三年生になってもこうして会っている。きっかけは物の貸し借りではあるがこの唯一の存在が永井を友人の中でも特別な位置づけにあると認識していた。つまりは親友である。永井とはこれからもたまにこんな感じでまた会うんじゃないかと予感していた。  インターホンが鳴る。永井で間違いないだろう。玄関の扉を開けると互いに笑顔になり「久しぶり」と言い合う。部屋に入ると床に座り雑談をし始めた。 「あっついね。ここから歩いて十分くらいしか、かからないのにもう汗だくだよ。あっこれ。ありがとう」  トートバッグから借りていたゲームソフトを出す永井。すかさず磯村は希望していた格闘ゲームソフトを三本出して、どれがいいのか選ばせる。それを見た永井はどんな特徴があるのか一本ずつ聞いていく。永井が色々と聞いてくるのでこれだけで三十分を要した。 「よし、じゃあこれにしようかな。そういえば磯村、進路はもう決まったの?」  やはりこの話題になった。進路とかその前に卒業できるのか危ういというのを隠して、まだどこの学校にするのか迷っていると誤魔化した。それはどうやら永井も同じのようだ。 「でもさぁ、皆、進学しても何しに大学に行くんだろうね。その目的がはっきりしている人をあまり見たことがないよ」 「目的って。やっぱり大学を卒業した方が就職しやすいからでしょう」 「そうなんだろうけど、それさえ達成できれば後は何でもいいの? もっとこう、やりたい事はこれだから、こういう職に就きたいとかもっと具体的に突き詰めた方がいいって話。それがなかったから就職しても3年以内で仕事辞めるとかよく聞くんでしょう」 「なるほど」  ここで思わず持論を展開してしまった。こんな事を話しても同年代の人から何を言っているの、そんな目で見られるだろうと口に出してしまってから思ったが永井は感心したような表情で聞いていた。 「ちゃんと考えているんだね」 「まだ子供といってもあと二年で成人って考えたらさすがに今までみたいに遊ぶ事しか頭にないのは不味いかなって最近思うようになっただけだよ」  永井は斜め下を向き耳の裏辺りを掻きながら真剣な表情になった。こんな顔は初めて見たかもしれない。

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