螺旋
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 次の日、編入先となる学校のオープンキャンパスへ。家から前の高校より近いのがありがたい。来年以降、高校へ進学する人を対象にした説明から始まりそれは全く異なる事情で来ている恭一郎には居心地が悪くて仕方がなかった。その学校のプロモーションビデオなるものも見せられ、「楽しそうな学校生活でしょと」自慢気に話す説明役の教員が目障りだった。自分はその楽しい生活を放棄してここへ来ているのだから。  体育館で全体説明をした後は何グループかに分かれての校内案内だった。ここまでの全てがどうでもよいことでただ座っていただけなのに精神的に疲れた、案内は在学中の生徒がするようだがここでまさかの人物が居た。  中学生時代に2年生の時だけクラスが一緒だった野田が見学者に声をかけて、自分について来てほしいと促す。こういうことがあっても不思議ではなかった、何百人という同級生が近辺の高校へ進学したのだから。  野田は途中から体調を度々崩すということで不登校となってしまい以後、卒業まで学校へ来ることはなかった。そんな人物が今は元気そうにオープンキャンパスのスタッフをやっている、それなりに仲が良く学校へ来なくなった時には心配していたのでなんだか安心した。  しかし自分は本来ここにはいないはずの人物、恭一郎が座っているエリアは別の生徒が案内するということでホっとする。  恭一郎は知る由もなかったが野田は恭一郎の存在に気がついていた。3年間は会っていなくて、背が伸びやせ細ったなという印象を持ったがしっかりと野田の記憶にも恭一郎は刻まれていた。だがここにいるのは皆、中学生。まさに居るはずがないということで恭一郎にものすごく似た誰かと解釈していたが、あまりにも似ていたため軽く慄いていた。  校内案内も終わると職員室前で解散、希望者が個別相談をするという流れだったが自分の本命はこっちであったのでようやくという思いだった。  これが私立の学校というものか、やはり公立とは設備面でえらい違った。ジムのようなトレーニング器具が置いてある広い部屋、各階に自動販売機、アイスクリームまで置いてあった。壁や床もまだ新しい印象があり学園ものアニメに出てくるような内装だった。事情を話し担当者が来るまで職員室隣にある相談室という名前の部屋で待ちながらこんなことを巡らせていた。  数分経って40代くらいの女性教員が来た。若林と名乗った教員は親切、丁寧にこれからについて教えてくれた。通信制でも週に一回、土曜日に学校へ来てもらう、教材は送るから期限内に終わらせ指定された場所へ郵送してほしい。そしてもう一度学校へ来てもらう際、決められたテーマで作文を書いてきてほしいと。これが試験に相当するものであった。  これでも文章を書くのは得意であった。最初から得意だった国語、そして唯一、小中高と一貫して褒められたのが文章表現の上手さであった。小学生5年生の時に書いた作文が先生から絶賛されて優秀な作文として廊下に張られた。ここまでされたら自信を持たない方がおかしい。  これからこの学校で学ぶにあたっての抱負、というそんなものはないと突っ込みたくなるテーマであったが心にもないことを書く、こう書けば先生の受けが良いという文章もいつの間にか書けるようになっていた。それは学校側が求める回答を肌で、空気で感じ取っていたからだ。  後日、その書いた作文を目の前で読んだ若林は唸っていた。  前の高校から受け取った資料を読んでやはり9月に今まで休んだ分を取り戻すためのテストを受ける必要があるとこの日言われた。8月になる前に必要な教材を全て送りテスト範囲も添えるから先ずはそのテストに向かって勉強してほしいと言われ大体の手続きを終えた。  オープンキャンパスから始まり怒涛の一週間であった。とりあえずよくここまで動けたと自分を褒めてやりたかった。ベッドの上で目をとじてそう思う。  自分がいなくなったと聞いたら皆はどう思うだろう、そこは気になるところであったがもう前の高校を気にすることは止めにすることにした。携帯の電話帳を見て高校から知り合った人達の連絡先を消そうか悩んだ。おそらくもう連絡を取り合うことはないだろう、その程度の関係だったと思い知る。  吉川真里、一番見たくない人の名前をみた。夏休み直前に今年も花火大会に行こうね、というメールが来た。前のメールに返事がないことは不問であった。あいつは今どう思っているだろう、さすがにもう怒って俺のことなんて知らないと見捨てられたかもしれない。あんな綺麗な彼女ができてもキスを軽くした程度で終わった、情けないと思いつつもどうすればいいか分からなかった、する勇気もなかった。  最後に別れのメールを吉川にでも送るべきか、それがせめてもの筋だと。できなかった、このまま何事もなかったかのように過ぎ去ればいいとそう願うだけであった。

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