螺旋
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 十二月七日は吉川の誕生日である。やはり学校が別々になりお互い生活リズムが変わってしまった影響は予想通り大きく十月からの時期は文化祭の準備、もちろんテストもある、そして進路を本格的に考えて説明会へ行くなどがあると場合によっては週一回ですら会うのがままならなかった。  今日はこちらも全てを捨て吉川に会うことを優先しなければいけない日。恭一郎の方から吉川の地元へ赴いた。この時期はちょうど学校は冬休みに入る手前なので向こうもある程度、身の回りが落ち着いた上で会うことができる絶好の日である。 「今日はね、家に来て」 「あれ、もしかして風邪ひいてた」 「うん、ちょっと前まで熱も出てて。でも今は大丈夫」  駅の改札前で合流して直ぐに、いつもと声の調子がおかしいと思ったら案の定、体調を崩してた吉川。真っ先にそれが気になり聞き逃していたが初めて吉川の家に招かれた。  去年までは学校帰りに近くの飲食店とかで誕生日を祝うという学生らしい誕生会をしていた、それに異論はなかったと思うが二人は付き合っている仲、もっとそれらしい別の形もあるはずだ。  クリスマスの時期に誕生日というのは羨ましい。街全体もイルミネーションで彩られ、祝福の音楽が流れるお祭りムードになるからだ。そんな賑わう駅前を通り過ぎ吉川の自宅へと向かう。今まで幾度なく想像した場所へ。  駅から徒歩十分というなかなか条件の良い場所の七階建てマンション、出入り口は自動ドアで入ると各部屋のポストがある。 「今、誰もいないの?」 「うん、お母さんもお父さんも仕事で平日は夜七時過ぎまでは帰ってこないから」 恭一郎の両親も共働きだが二人ともそんなに早い時間帯に帰ってくることに少なからず驚いた。今は十六時十一分、その時間まで七時までと考えて二時間四十九分、これを短いと捉えるか長いと捉えるか。エレベーターは最上階まできた。  さすが七階からの景色は違う。下からは確認できなかった遠くの建物も見える。七○三号室、吉川という表札。  玄関へ入ると辺りは薄暗かったが直ぐに電気を点けた。リビングへ案内される、十三帖ほどの広さがあった。  冷たい空気が漂う部屋を少しでも早く暖めようと暖房を点ける吉川、恭一郎は用意したプレゼントとケーキをテーブルに置き、早速そのプレゼントを渡す。 「はい、誕生日おめでとう、今年は迷惑かけたね」 「ありがとう! 開けていい?」 中身は盤に青い薔薇の絵柄がプリントされた腕時計だった。値段は二万円前後して高校生にしてはかなり奮発した方であった、こんな自分でも見切りをつけずに付き合いを続けてくれた感謝の表れである。 「綺麗なバラだね、ありがとう」  床に胡坐で座る吉川。彼女に限った話ではないが下が短いスカートなんだから床に座る時はもっと正座して足を閉じるなり気を遣ってほしい、若干目のやり場に困りながら吉川の喜ぶ姿を見つめていた。貰った腕時計を慣れない動作ながらも左手に付ける。 「大事にするね」 そう言いながら胴の辺りに抱きついてきた。これからこの家の中で何をするのか、テレビゲーム? この家にあるのかは分からない、ケーキなどあっという間に食べてしまえるだろう。 「真里」そう言ったと同時に覆いかぶさるように包みこみ吉川を仰向けにした。  八月と同じような体勢になった、違うのは吉川の体を隠している布の枚数が多い、厚いことか。 「体調は本当に大丈夫なの?」 「ダメかもって言ったら我慢してくれるの?」 「じゃあ、優しくします」  制服のブレザーを脱がすもその下はセーターであった。「恭ちゃんが全部脱がしてよ」 赤子に戻ったかのように何もしようとしない吉川。一旦、上半身を起こしセーターを脱がす、ここまできたらワイシャツのボタンも一つひとつ外し吉川の素肌を露わにさせる。こういうプレイもあるのか、高校生には新しい境地を見出した気分であった。 「やっぱちょっと恥ずかしいな」 そう言いながら漫画のように頬が赤くなっているような表情を見せる。全てのボタンを外しブラジャーに目がいく。唾を飲み込む磯村。まだワイシャツは脱がそうとは思わなかった。下を向いて嬉しいやら恥ずかしいやらそんな感情が絡み合っている吉川の表情が可愛くてしょうがなかった。  さっきからドクドクと鳴りっぱなしの心臓を感じながら、吉川を優しく寝かす恭一郎。右手を吉川の内股に置くも、「やだっ、恭ちゃんの手、冷たい!」恭一郎の手があまりにも冷たく叫ぶ吉川。「なんだよ、ちょっとくらい我慢しろよ」 「なにこれ、氷? どうすればこんな冷たくなるの? 温まるまで素肌に触らないで」信じられないといった顔で苦情を言う吉川。  なかなか難しい注文だった。仕方がなく両手を吉川の手で握りしめて温めてもらったが芯まで冷え切っていると伝わる手は手強かった。  なかなかスムーズにはいかなかったがこうして人と、好きな異性と触れ合うだけで癒される。毎日のように何十人と接するのが煩わしかった、そこから脱して今は一人で居る方が多い、そうなった時に何を思ったか、人が恋しい、誰かと話したいであった。  しかし誰とでも良いわけではない、こうして波長が合う、心を許した人といたかった。その瞬間が何より今は幸せだと気がついた。  無理して集団の中に身を置きここが自分の居場所など思い込むことに意味はあまりなかった。誰か一人でも見つけてその人と深い関係を築いていく、そんな人と過ごす方が有意義であると今は思う。 「俺、真里がいなかったら本当に一人で寂しかったよ、後先考えず別れようと思っていた俺が馬鹿だった、ありがとう」必死に擦るなどして手を温めている吉川にお世辞ではない感謝の言葉を送った。 「えっ、いやだ、もういいよ、そんなの」 「なんで俺にそんな拘ったの? 真里だったら直ぐにまた新しい彼氏できるでしょう?」 「えぇ? なんでって、恭ちゃんが好きだから以外なにか理由いる?」 「そう言われるともう何も聞くことはないな。いや、よくメールの返事もしないでほったらかしにされて耐えたなって思って」 「自覚ないのかもしれないけど、恭ちゃんすごい魅力的な男性だよ。よく一緒に歩いていると他の女性が思わず目止めたり視線感じるもん」 「そうなのか」 本人にも心当たりはある、本当に気づいていないわけじゃない。ただ未だに信じられない、そういう謙遜した気持ちも持っていた方がいいと思っているだけであった。 「もう手はいいからさ、キスくらいさせてよ」 異性と二人っきりでいて手を握り合っているだけというのはあまりにも物足りなかった、手は直に素肌には触れないよう注意を払いながら唇に触れた。  両足の間に入り、別の意味で慎重に体を倒す、とにかく触れたい、首筋などにキスをする。下に目線を移すと大胆にも大きく開かれた両足、黒玉模様がプリントされた白い下着だった。まだ子供だなと思う。そんな穢れない女性、ここでまた下に手を伸ばすと悲鳴を上げられる、それが歯がゆい、あまりにも残念だった。本当は勃起状態のこの性器もどうにかしたかったが今日は時間がなさそうだった。  中途半端に終わった夏の続きだったが本能のままにやればいいと感覚を少しづつ掴んではきた。心残りはあっても吉川も深い関係になっていると満足そうな表情。最後に蝋燭が灯されたケーキと一緒に携帯のカメラで写真を撮った。  写真をじっと見つめる、題名を付けるなら幸せの瞬間とでもつけるか。帰りの電車の中、席に座り降りるまで見ていても飽きないまさにその瞬間を収めたものだった。  急に電車が減速した、最後はとうとう停車してしまう。一分後、車内に放送が流れこの先、人身事故が発生したためこの電車はしばらく運転を見合わせるとのことだった。ため息、落胆の声が一斉に出てそれが充満する。せっかく幸せの気分に浸っていたのに水を差された形だ。  人身事故、高校に進学して電車で通うようになってから何度か遭遇した。やがてそれはホームから飛び降りて誰か自殺を図ったために起きた事故だとも知った。なんでそんな事ができるのか理解できなかった。それこそ、そんな勇気があるならと言いたい。  もしもここまで、自分が今、噛み締めている幸せを、どこかで感じ取ることができたならそれを踏み止まることができたのではないか。  学校を休むようになってからもうこのまま眠って、目覚めることなく人生が終わっても後悔はないとまで思った。それでもなんとか生きていたらこんな良いことがあった。  そんな瞬間は誰にでも訪れるものではないというならやはり世の中というのは平等というのには程遠い、そんな中、自分には訪れたその瞬間が。  電車は四十分ほど停まっていた、座っていられたのが幸いだった。

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