-MEGANE-
-23- 明鏡寺夢女の推理(3/3)

……ふぅ。さて、もうわかっただろう? なに? まだわからない? 仕方ない。特別大サービスでヒントを挙げよう。きみが柑森ちゃんと一緒に部室を出た際に、目を向けたものが、硝子さんが擬態していたものだ。……ああ、もしやという顔だね。そう、きみが部室を出る直前に目を向けたという、二つのグラス――その片方のグラスに入った氷の眼鏡に、硝子さんは擬態をしていたんだ。うん、そうだろう、きみはそういう顔をせずにはいられないだろうな。あの氷の眼鏡――あれが硝子さんだったとしたら、と考えると、きみはそういう顔をするだろう。きみはあの氷の眼鏡を実際手にして、硝子さんではない、と確認しているのだから。……でもね、すり替えられていたとしたら、どうだろう? 硝子さんに似せられて作られた氷の眼鏡と本物である硝子さんが、きみの見ていないところですり替えられていたとしたら? きみが使ったグラスと氷のグラスをすり替えられたように。 すり替えられるときがあったとするならば、やはり考えられるタイミングは一つしかない。きみが部室を出ようとして、薬を飲もうとする柑森ちゃんに背を向けたときだ。そのときに、彼女は予めクーラーボックスにでも仕舞っていた硝子さんと、硝子さんに似せて作られた氷の眼鏡をすり替えたんだ。というより、氷の眼鏡が入ったグラスと硝子さんが入っていた氷のグラスとそっくりそのまますり替えた、という方が正しいかな。硝子さんは、密室状態の部室の中で、擬態した姿からテーブルの上にバラバラとなった状態となって現れたわけだが、どのように擬態した姿から、本来の姿――もっとも、バラバラとなった状態が本来の姿とは言わないが、ともかく、擬態した姿から視認できる姿になったのかというと、硝子さんが入れられている氷のグラスは、時間の経過と共に、自身を溶かしていき、そして、硝子さんをテーブルの上へと倒すこととなったのだ。ちなみに、これは、硝子さんが入れられているグラスが氷のグラスであるとわかってない限り、考えもつかないことだ。 とはいえ、ここで疑問が残る。 氷のグラスに入っていた硝子さんが、グラスが溶けたことによって、テーブルの上に倒されるところまではいい。しかし、その硝子さんがバラバラにされていたというのは、どういうことだ? 硝子さんには、一切の金具が使われておらず、その構成部品と言えば、レンズ、ウデ、フレーム、だけという非常にシンプルなもので、故に、やろうと思えば、工具など一切使わずに簡単に分解することが可能だし、そして再構築することもまた可能だが、硝子さんがただ分解されていた程度であれば、きみも二週間も学校を休むほどショックを受けなかっただろう。きみがあの日に硝子さんを発見したとき、硝子さんは再構築不可能なまでにバラバラにされていたからこそ、二週間も学校を休むほどきみはショックを受けたわけだ。ウデの部分はへし折られ、フレームはひん曲がり、レンズはバラバラに砕かれていたことは、きみが語るまでもなく、私も目にした。 一体いつ、硝子さんはそんな悲惨な目に遭ったというのか。……これはね、今までの私の話をちゃんと聞いてくれているきみなら、おそらく察しはつくんじゃないかな。 ――そう、きみが柑森ちゃんと部室にいたときにはもう既にその姿になっていたんだ。すり替えられた氷のグラスの中に、硝子さんは既にバラバラになった状態で、入っていた。厳密に言うと、入っていたのは、フレームとウデだけで、砕かれたレンズは、おそらく氷のグラスの底の部分と一緒に凍らされていた。無論、きみは気付くはずが無い。すり替えられたのはきみが部室を出ようとして、薬を飲もうとした柑森ちゃんに背を向けたそのときだ。そして、きみが氷の眼鏡――もう既にこの時点では硝子さんにすり替わっているわけだが、それに目を向けるときは、きみは部室から出て、扉の前に立っている。その距離では、グラスが氷のグラスに入れ替わっていることは勿論のこと、グラスに立てるようにして入っていた氷の眼鏡のウデが例え変形していたとしても確認することはできなかっただろうし、それが氷の眼鏡のウデではなく、きみの眼鏡――硝子さんの変形したウデだとは、きみが知ることは到底不可能だというわけだ。……そう。なぜならば、きみはあのとき、眼鏡をかけていなかったのだからね」

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