-MEGANE-
-22- 明鏡寺夢女の推理(2/3)

きみが硝子さんを発見したときに目にした、テーブルの上に残った水たまりは、柑森ちゃんが零した水じゃなかったんだ。いや、柑森ちゃんが零した水は少なからず残っていただろうが、それに加えて、氷でできたグラスが溶けたことによって、水になった。これで、二つある内の片方のグラスが消えてしまったことの説明がつく。ついてしまうのだよ。ははあ、なるほど、そういうことだったのか――と、きみが思うのも束の間、しかしきみはふと我に返って、ある事に気付くんじゃないのかな? 二つあるグラスの内、無くなった方は、氷の眼鏡が入っていたものだ。そして、その氷の眼鏡は、他ならぬきみによってグラスに入れたものだし、そのグラスはそもそも、きみがサイダーを飲むときに使っていた。さすがにいくら近眼で裸眼であるきみと言っても、氷でできたグラスと普通のグラスを間違うはずはない。なんせそのグラスはずっときみの手元にあったのだからね。それに、きみが使っていたグラスが氷のグラスであったとすれば、感触で気付くはずなのだよ。なぜなら、氷は表面から解けていく。ものの数分もすれば表面はつるつるとした状態となって、手で持つことすら叶わなくなるからね。普通のグラスを冷凍室に入れた程度じゃ、精々グラスの表面についた霜が水滴になるくらいだろうし、つるつると持ちにくいということはまずない。というわけで、きみが消えたと言っていたグラスは、きみが使っていたグラスではない――ということになるが、はて? そうなると、きみが使っていたグラスは、氷のグラスと入れ替えられていたことになる。いつ入れ替わったのだろうか。 入れ替わるときがあったとするならば、考えられるタイミングは一つしかない。きみが最後に部室を出ようとして、薬を飲もうとする柑森ちゃんに背を向けたときだ。そのときに、彼女は予めクーラーボックスにでも仕舞っていた氷のグラスと、きみが使っていたグラスを、すり替えたんだ。これでなんと、グラス消失の理由の説明がついてしまうし、尚且つ、テーブルの上に水が残っている説明もまた、ついてしまうわけだよ。……ふぅ、これで一件落着、問題が解けて良かった良かった……と喜ぶのはまだ早い。これはまだほんの準備段階にしか過ぎない。本題は、ここからだ。グラス消失の謎は、密室殺人のトリックを解く鍵であって、本命の宝箱ではないからね。 さて、鍵を手に入れた私は、いよいよその鍵を持って宝箱の在りかを探ろうとしたわけだが、宝箱を既に開けた今の私から言わせてもらうとね、やっぱり、思った通りだった。密室になった部室になんてね、入る必要はなかったのだよ。きみと柑森ちゃんが部室を出た時点で、既に犯人は――柑森ちゃんは、犯行を終えていた。硝子さんは既に、バラバラにされていたし、テーブルの上にも置いてあったんだ。最初から密室を破る方法についてのアプローチを思いきって捨て、密室が作られる前後が怪しいと睨んだ私は、正しかったというわけだよ。 さて、自画自賛はこのくらいにして、私は今からきみを宝箱へ案内しようと思う。きみと柑森ちゃんが部室を出た時点で、既に犯人である柑森ちゃんは、犯行を終え、硝子さんはバラバラにされ、テーブルの上にも置いてあった――と、私は言ったが、いくら視力が悪く、裸眼だからと言って、部室を出る前にテーブルの上に硝子さんが置かれていたなら、それを見過ごすことはあり得ない――きみはそう言いたげな顔をしているね。事実、きみは扉を閉める前に、はっきりと視えているかどうかはともかく、テーブルの上に置いてある二つのグラスも確認しているし、片方のグラス――これはすり替えられた氷のグラスだが、それに入った氷の眼鏡も確認している。硝子さんが既にバラバラになってテーブルに置かれていたとするのなら、それを確認しそびれるはずはない――と言いたくなるのも、わかろうものだ。確かに、柑森ちゃんと部室を出るときに、きみがバラバラとなった硝子さんを発見した時と同様の形で、テーブルに置かれていたとしたら、さすがに見過ごすことはないだろう。しかしね、しかしだよ、きみが硝子さんを発見したときとは違った形でテーブルの上に置かれたとしたら、どうだろう? きみはうっかり見過ごしてしまうんじゃないのかな? ……要はね、擬態だよ。周りの風景に溶け込むことで天敵から身を隠す、生物界ではよく使われる技法だ。硝子さんは擬態していたとしたら、どうだ? いや、厳密に言うと、柑森ちゃんの手によって、擬態させられていたわけだが……それだったら、きみが気付かなかったというのも無理からぬ話だとは思わないかい? ちょっと考えてみるといい。きみが考えを巡らしている間、私は喋り疲れたから、ここらで水分補給とさせてもらうよ。

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