-MEGANE-
-25- 後日談1

 一般的には記念すべきと言われている誕生日がやってきたからと言って、その日に特別な何かが起こるわけではないし、歳を取った分、RPGのようにレベルが上がって、何かしらのステータスが上がったという実感もない。それなりの友好関係を築いている人間であれば、友人からプレゼントとかもらったりするのだろうが、俺にはそういう人間はいない。また、柑森のように、未だに家族からプレゼントをもらう人間もいるのだろうが、俺の親は、中学生になったのを境に誕生日にプレゼントをくれることはなくなっていたので、それもない。ちなみに、ケーキもない。だから、俺にとっての誕生日というのは、面倒みの良い先輩が、おめでとうと言うためにわざわざ部室にやってくる――というくらいの意味合いしかもたなかった。 「いやぁ、それにしても、良かった良かった。見事なハッピーエンドじゃないか。もしこれが映画かなんかであったのなら、私は席を立って手を叩いていただろうね。きみと柑森ちゃんとの関係修復に手を回したのは他ならぬ私だが、しかしまさか、きみと柑森ちゃんが付き合う関係になるとはね。私もそこまでは予想できなかったよ」  例によって部室である。  元気一杯の明鏡寺先輩は、席を立ちさえしなかったものの、手を叩いてそう祝福してくれるのだった。  正面から祝福されて、悪い気はしなかったが、しかし居心地はあまりいいとは言えない。どうにも照れくさかった。 「あの……ところで、明鏡寺先輩。あの日のことで、ずっと気になってたことがあるんですが」  素直になれない俺は、そんな言葉を口にすることで、照れをごまかした。 「ん? どうした、急に」 「あの日――昼休憩になって柑森が部室にやってきたのは、明鏡寺先輩の差し金ですか?」  俺がそう言うと、明鏡寺先輩は、ばつが悪そうに舌を出した。 「……ばれてたか」  やっぱり。  おかしいとは、思っていた。  今まで学校を休んでいた俺が部室にいることなんて柑森にはわかるはずもないのに、あの日の昼休み、まるで俺が部室にいることがわかっていたかのように、あるいは、誰かにそこにいると教えられていたかのように、部室へと訪れた。 「実はね、休憩時間中に、柑森ちゃんに会いにきみの教室へ行ったのだ」 「そうなんですか?」 「ああ。そのとき、私は既に答に辿りついていたから、柑森ちゃんにこう言ったんだ。『私はきみが犯した罪を知っている。もし、きみが彼に言うつもりがないのなら、私が代わりに彼に言う。タイムリミットは今日の放課後までだ。彼は今日、学校に来ているから、その気があるなら話してあげるといい』――と、ね」  このことは柑森ちゃんには内緒だぞ、と明鏡寺先輩は言った。 「結果的に私の言葉によって、柑森ちゃんはきみに会いに行ったわけだが、だからといって元々、柑森ちゃん自身にきみへ謝る気持ちがなかった――というわけではないだろうから、そこはわかってあげてほしい。私が柑森ちゃんに会いに行かなかったところで、彼女はきっとどこかのタイミングできみに打ち明けていたと私は思う」 「それは――俺もそう思います」 「……そうか。じゃあ、今の私の言葉はいらぬお世話だったというわけだな」 「そういうことになりますね」  ふっ、と明鏡寺先輩は笑った。 「さて……もうこんな時間か。私はそろそろお暇するとしようかな。もうすぐできみの彼女も来るんだろう?」 「そう聞いてますが……明鏡寺先輩は、これから何をするんですか?」 「私か?」  席を立った明鏡寺先輩は、一度訊き返した。 「私は、これから探偵ごっこだ。……まったく、この学校には問題が多過ぎるよ。ミステリの主人公というのは、そこにいるだけで周りが事件になるらしいが、なんだかそれを体験しているかのような気分になってくる」 「でも、楽しそうですよ、明鏡寺先輩」 「誰が楽しくないと言った? こんなもの、楽しいに決まっている」 「でしょうね」  明鏡寺先輩の笑みを見て、俺も思わず笑ってしまった。  どうやら明鏡寺先輩はそのまま立ち去るつもりのようだったが、「ああ、そうだ」と、立ち去りかけた足を止めて、振り返った。 「うっかり忘れるところだったが、誕生日プレゼントをまだ渡していなかったな」  え?  まさか、用意してくれたのか?

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