-MEGANE-
-21- 明鏡寺夢女の推理(1/3)

「今から、事件の真相を明らかにしたいと思っているが、一点だけ、きみに守ってもらいたいことがある。なに、簡単なことだ。そう身構える必要はない。ただ、黙って聞いてくれていればいいというだけの話だ。なんせ、ついさっき予冷が鳴ったばかりだからね。あと十分ほどでHRが始まってしまう。だから、きみの言葉を待つ時間も惜しいし、きみの言葉に答える時間すら惜しい。そういうわけで、さっそく話を始めようと思うのだが、それでいいかな? ……、……オーケー。 じゃあ、きみの承諾も得たところで、さっそく話に入らせてもらおう。さっきも言った通り、犯人は、柑森ちゃんだ。それは、間違いないだろう。しかし、どうやって? きみの話だと、あの日、柑森ちゃんはずっときみの傍にいたという。それに、そもそも、だ。鍵は他ならぬきみが持っている。トイレか何かを理由に、少しの間、柑森ちゃんときみが離れたとして、その間に部室で硝子さんをバラバラにしたとして、どうやって密室である部室に入るというのだ? ――密室。そう、これが今回、頭を悩ませることとなった不可解な問題だ。密室殺人。彼女は一体、密室でどうやって殺されたのか? 私はまず、問題を解くにあたって、思い切って、鍵のかけられた密室に入ることは不可能だと仮定した。その代わり、密室が作られる前と後に着目したんだ。ほら、よくあるじゃないか。もともと犯人は密室の中にいて、誰かが鍵か何かを使って、あるいは体当たりして、部屋に入ってきて、死体に驚いている間に、室内にいる犯人は一旦部屋を出て、あたかも死体発見者の悲鳴を聞きつけて、やってきたかのように振る舞う――アレみたいなものだよ。つまり、密室前後の、密室じゃない状態のときに、何かされているのではないか、そう思ったんだ。そして、きみが言っていた『グラスが一つ無くなっていた』――という、たった一つの手かがりにピンときたんだ。今からそれについて説明しようと思う。 順を追って説明しよう。まず、『グラスが一つ無くなっていた』というきみの証言を聞いて、私はこう考えた。『なぜクラスがなくならなければならなかったのか』。要は逆転の発想だな。……でも、これは上手くいかなかった。すぐに行き詰った。そこでどうしたものかと頭をフル回転させていると、ふと、あることに気づいたのだよ。これもまた、きみの証言なんだが……確かきみは、グラスが一つなくなっていたと証言したときに、『机の上に放置していた水と片方のグラスはそのままだったんですが』、と言っていたね。 でもね、よくよく考えてみれば、それはおかしいのだよ。放課後になっても机の上にある水がそのままだなんて、あり得るはずがない。まだ夏休み明けたばかりだぞ? 扇風機が必須なほど――いや、扇風機じゃ物足りないほど暑い環境だ。事実、柑森ちゃんもこう口にしていたらしいじゃないか。『窓を開けていれば乾く』と。そう、あの日は、窓も開いていたんだ。風通しも良かった。さすがに綺麗さっぱりなくなるのはないにしても、目でわかるほど乾いても良いはずなんだ。それなのに、たかだかコップ一杯にも満たない水が半日経ってもテーブルの上に残っているというのは不思議な話だとは思わないか? そこで、私はさっきの問題に戻ることにした。グラスがなぜ消えなければならなかったのか、という問題だ。単一で考えてもうまくいかなくても、他の要素とかけ合わせることで、つまり、テーブルの上に残ったままの水とリンクさせて考えることで、新しい発想が生まれると思ったからだ。そしてそのアプローチの仕方は、正解だった。私を見事に問題の答えとなりそうなものに導いてくれたよ。 テーブルの上に残った水。なぜ、朝方に柑森ちゃんが零した水が乾いた様子もなく、そのままテーブルの上に残ってあったのか。私はこう考えた。その水は、そのまま残っていたものではなく、新たに何らかの形で足されたものなのではないか、とね。ここまで考えてしまえば、あとはもう簡単だ。グラス消失トリックと照らし合わせて、グラスが消失したことでテーブルの上に水が加えられる、という仕組みが成立するケースを考えればいい。そこまで突き詰めてしまえば、もうなんということはない。その仕組みが成立するケースというのは、考え得る限り一つしかない。きみが消えていたと言っていたグラス――あれは、氷でできたものだったのだと、そういう考えに至るしかないのだよ。

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