妖精の尻尾
友【3】

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 力強く言い切った店長の言葉に、青年が更に反発を覚えたのはエドワードから見ても明白だった。 「何を根拠にそんなことが言えるのですか」 「では逆に聞くけど、アルフレッドこそ、どうして人が皆そうだと決めつけられるんだい」  青年は、その問い掛けに唇を噛んだ。 「アルフレッドは俺に根拠を聞いたね。俺は長く人間と共にあった。それが根拠にはならないかい」 「しかし、その間に兄さんが辛い目にあっていることも私は知っています」 「だけど、それを上回るくらい嬉しい出会いもあった。ここにいるエドワードとの出会いだってそうだ。エドワードは君の言う人間達とは違う」  二人の視線が一様にエドワードへ向いた。特にエドワードを見る青年の表情は、エドワードを恐怖させるほどのものだった。エドワードはどんな表情を浮かべてよいのかわからなかった。二人の視線に耐えかねて、思わず顔を俯けてしまう。けれど、そんなエドワードを励ますように店長は尚も言葉を続けた。 「君が知っているディランやアリーも、そして気難しいルーやニーヤさえも、エドワードのことを認めているよ」  その言葉にエドワードは恐怖を忘れて、驚きに顔を上げる。店長からだけでなく、この店を訪れた妖精達からも認められている。それはエドワードを奮い立たせるには十分な事実だった。  エドワードは自身を上げますように一度拳を握り締めた後、店長の手を取った。店長は驚いたようだったが、エドワードと目が合うと、口角を少し上げただけで何も言わなかった。そのまま店長の手を引いてカウンターを出ると、エドワードはドアの前に立つ青年へと歩み寄った。  離れていては、伝わるものも伝わらない。それがエドワードにできる最良の選択だった。  そして、自分を見下ろす青年を前にしてエドワードは、 「僕は……」  と、勇気を振り絞って口を開く。口に出さずにいた気持ちを言葉にすることは難しい。それでもエドワードは懸命に言葉を探した。 「ルーさんもアリーさんも、ニーヤさんもロージーも、皆に出会えてよかったと思います。彼らに出会う機会を与えてくれたこの店で働けたことを嬉しく思うんです。そして、店長には心から感謝しています」 「だから私にも、兄さんが人間の世で店を続けることを認めろと?」  先程よりも距離が縮まった分、青年の威圧感は増している。けれどエドワードはもう怖いとは感じなかった。自分の抱く感情は間違ってはいない。店長の手を通じて感じるぬくもりがそれを証明してくれている。 「僕は店長にも、ルーさん達にも、この店に居て欲しい。それでは駄目ですか」  エドワードは言いながら、店長の手をぎゅっと握った。それに応えるように店長も手を握り返してくれる。 「アルフレッド、俺は君に考えて欲しい。わかり合う努力もせずに決めつけることが、本当に正しいことなのかを」  青年は目を瞬かせた後、店内を見渡し、エドワード、店長と順に目を向けた。再び青年が店長と目を合わせた時、その瞳の中で整理しきれない感情が揺れているのがエドワードには見てとれた。 「……兄さんは、昔、あの人がくれた名に恥じないように生きたいと言っていましたね。それは今でも変わりませんか?」 「ああ、俺は母が与えてくれたアルヴィン――妖精の友を表すその名において、妖精の友で在り続けたいと思う」 「では、人間と共にこの店を続ける。それがその答えというわけですか」 「俺はね、アルフレッド、妖精の友として、妖精きみたちの友が俺一人だなんて悲しすぎると思うんだ」  優しく諭すように呟かれたその言葉に、エドワードは思った。  店長が自分と似ていると称する以上に、店長の義弟おとうととこの店で働く以前の自分は似ているのではないだろうか。  両親や使用人といった限られた人々に囲まれて生きていた頃のエドワードは、狭い世界のことしか知らなかった。そして同じように狭い世界に生きる妖精の彼は、人間に兄を取られてしまうことを酷く恐れている。  そう思い至ると、エドワードの口を自然と言葉が通り抜けていた。 「友達になりましょう」  エドワードが発した言葉に、青年は目を大きく見開いた。

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