黒雨
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「ええっ、そうなんですか? 小さい頃のおふたりの姿を思い浮かべると可愛くて、ついつい、にやけちゃいます」  日菜子が、話に割って入ってきた。正直、陽人と私しか知らない思い出話をこの女と共有したくなかった。どんな些細なことも、私にとってはかけがえのない、きらきらした宝物なのに。ああ、これから先、陽人と私は離れ離れになって、彼と彼女しか知らない思い出がどんどん増えていくんだろうなあ。私の思い出は今日までの分でストップ。増えることはないのに。どうか、お願い。大切な宝物を無下に扱わないで。 「そうよ。私は人と群れるのが好きじゃないの。子供の頃から可愛げがなかったから、遠足や運動会なんて大嫌いだったの。だから、陽人は、ひとりでてるてる坊主をつくってたのよね。意地悪なお姉さんでごめんね、陽人」 「そんなことないよ。波月ちゃんは、優しいよ。俺、小学生の頃まで背が伸びなくて、意地の悪いヤツらに『チビ』って言われてバカにされてたんだ。そうすると、いつも、どこからともなく波月ちゃんがやって来てさ、いじめっ子たちを撃退してくれたんだよね。俺にとって、波月ちゃんは世界でたった一人の、いちばん綺麗で強くて優しいお姉さんだからさ」

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