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「オリーブオイルじゃないの?」 「美桜が大のバター好きなの」 「そ、そっか……」  美桜に旨いものを食べさせて。琴音からの最初の言葉を思いだし、受け入れた。  ダイニングテーブルいっぱいに並んだ皿、皿、皿。 冷やすために冷蔵庫に入れてあるシフォンケーキを出していないが、一体誰のなんのパーティーと思わせるほどのおかずたちが湯気を立てている。 もちろんコンロには一箱使用した鍋いっぱいのカレーが、出番はまだかと蓋を閉じた状態で今か今かと待機中。  思わず顔を見合わせ、二人はお互いに賞賛するように微笑み合った。 すでに時刻は六時過ぎ。 琴音にいたっては昼食抜きの状態で、やっと飯だと安堵の笑顔でもあった。 「そうだ。土鍋も火にかけるけど、他に忘れたおかずはないわね?」 「ある! あとはカレーをどかせばいいだけだから、目玉焼きとスクランブルエッグは、ご飯が炊けてから作ろうね」 「……え?」  初耳ですけどと、律夏は琴音にまだ食べるのかと目を細めた。 「カレーには卵でしょ?」 「それだったら、ゆで卵もじゃない?」 「それ良いね!」  冗談のつもりが即採用され、カレー鍋を退かしお湯を沸かす。 いつまで経っても給仕から解放されず、どれだけ作り、どれだけ食べれば満足するのだと、律夏は些かの恐怖さえ覚え始めていた。 「バター、バター」 「スクランブルエッグに半分も入れるの?」 「違う、違う。目玉焼きにも使うんだよ」  手をかけたついでにバターを取り出すと、琴音はボールに卵を割り入れていく。 一、二、三、四と、倍量の殻を捨て、牛乳をダーと流し入れると慣れた手つきでカチャカチャと菜箸で溶いていく。 温めたフライパンに三分の一のバターをぽんと放り、柄を傾け、溶けた頃合いで縁をなぞってから中心に戻す。 ふつふつと呼吸を始めたバターに半分の溶き卵を流すと、菜箸を素早く動かし縁から中心に向かって一周。固まり始めた中心部分の底をなぞり、一心不乱にかき混ぜた。  琴音の隣で泡立て器を準備すると、律夏は残りの卵を担当すると言わんばかりに順番待ちをした。 「美味しそう」 「ふふふ」  得意げな笑みを浮かべながらフライパンを洗い、キッチンペーパーで水分を拭き取るとコンロに置いた。

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