ご飯のおかわりは?
0 いただきます

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 運命。と言うには些か陳腐で、偶然と言うには出来過ぎていた。 まさか、平凡な日常に幸運が舞いこんで来る日がこようとは、姉妹共に思っても見なかった。 「お姉。早く、早く」 「待って」  玄関を勢いよく飛び出したのは妹の美桜、面倒くさそうに施錠しているのは姉の琴音である。 結婚式に出席しなければならないと両親は今日、明日と外泊するため、姉妹は留守番を余儀なくされた。 好きなものを食べて良いよと食費を託すと、昼過ぎの新幹線に乗り遅れるからと慌ただしく旅立っていった。 母が置いていったポーチのなかにはリッチに、一万円札と小銭が複数枚。 オマケに大きさが札の半分ほどの福引き券が、二十枚近く入っていた。 回数にすると、五回。あと二枚足せば、六回は引ける。 徒歩で十分ほどの場所にある近所の商店街が会場となっているが、姉妹共に腹ぺこで、まったく関係のない背中側にあるファーストフードで済ませようとしていた。 それでいて、福引きは今日、明日の二日間が抽選期間。 きっとコツコツ貯めてきた母が一番悔しいのではないかと思うも、姉の琴音から商店街で買い物をしてから福引きに挑戦しようと持ちかけた。 妹の美桜は楽しいことはなんでも好きだった。 腹が減っていることよりも、ガラガラが回せることへの好奇心が勝り、二つ返事で手を上げていた。 面倒ながらも自転車で美桜の後方をついて行き、あっという間に到着した。 「お弁当、お総菜、飲食店。何が良い?」 「いっぱい食べたいから、食材を買っていこう!」 「えぇ。これから作るの、すっごい面倒くさいんだけど?」  中学一年になった美桜は、母から料理を教わるのが休日の楽しみになっていた。 高校一年の琴音はザッと表面を教わると、完全なる飽きから包丁を握らなくなっていた。 始めたばかりの妹が調理をするとなれば自分が主導権を握らなければ危険であると、瞬間的に気づいてしまったようだった。 それでいて、福引き券の引き替えは三千円で一枚と、五百円で補助券が一枚のため六枚は必要である。 弁当で換算すると、計算しながらでも最低五個は購入しなくてはならず、二回分となれば大食いの地獄絵図。 腕を組みながら琴音は空を仰ぎ、悟りを開いた。 「やっぱり、食材にしよう」 「やったー!」  母が帰宅してから賞味期限が近いモノを調理して貰えば無理に食べなくとも済むと、琴音はスーパーのカゴを手にした。 「それで、何が食べたいの?」 「焼き肉、生姜焼き、カレー!」 「肉が食べたいのね」  スタスタ先を歩き肉コーナー前でポップに書かれた価格を確認し、琴音は豚バラ肉、挽き肉、家族に人気のシールが貼ってある焼き肉用の三人前のパックを躊躇することなく放り込んだ。 「あっ。お姉。これ、これ」 「えっ?」  一体どこで覚えたのか、無垢な笑顔で分厚いA4ロースステーキを指差してきた。 完全なる予算オーバーの金額に首を振り、琴音はふと見えた名もなきステーキ肉をカゴに放った。

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