「今日はごちそうさまでした」 「あれ? もう帰るの?」 「そろそろお風呂とか明日の準備とか、色々と下の子たちのことやらないといけないから、洗い物は手伝っていないけれど帰るね」 三人仲良く玄関に向かい、律夏が靴を履くのを見ながら琴音は口を開いた。 「今日はありがとうね」 「いえいえ。美味しい時間をありがとうございました」 「ご飯のおかわり会。また開催しようね」 「ぜひぜひ。じゃあね」 「うん。またね」 手をひらひらさせながら出て行くのを見届けると、琴音は伸びをした。 律夏の台詞は琴音にも該当し、洗い物や美桜のこと、自分のことは後回しに明日の朝食も考えないといけなかった。 いつもと違う子供たちだけの時間だが、少しだけ大人にならなければならない時間。 これもまた運命と、寝ぼけ眼の美桜の背中を押しながら風呂に誘導した。 「ほら。寝る準備するよ」 「まだ、眠くないもん」 「寝てたのに眠くないはずないでしょう」 「うぅぅ……」 ふくれっ面をしてもなにも解決しないと更に背中を押すと、後は一人で大丈夫と琴音は脱衣所から閉め出され、まっすぐとシンクに向かった。 母は毎回こんな気持ちで姉妹の面倒を見ているのかと思うと、もう少し、ほんの少しだけ、率先して手伝いをしようかなと、スポンジに洗剤を垂らした。 「ふんふんんふーん」 水切りラックに食器を重ね終わり、冷蔵庫を眺める。 姉妹二人では到底食べきれないだろうと言う食材の数々ににんまりしながら、明日の朝食はどうしようと悩む時間に幸せしか溢れていなかった。 母が作って食べられる幸せとは些か違う。 自身で決めて、作って、これだけ食べても良い。 ご褒美のような朝食に、わくわく感が伴うからだ。 米は研ぎ終わってタイマーセットし、パンは卓上にあるから焼けばいいだけで、どっちも食べたいならどっちにも合うおかずにすれば良いだけなのだ。 食べたばかりの思考はすでに明日のご飯を見据え、満腹でもまだまだ食べられそうな勢いだ。 「お姉。いいよー」 「はーい」 現実世界に引き戻されると、冷蔵庫を閉めた。 「ご馳走様でした」 これ以上は手を伸ばさないように、琴音は足早で自室に立ち去った。明日の楽しみは明日にとって置いてこそと、琴音はキッチンの電気を消した。
コメントはまだありません