カフェ、「Your Funny Valentine」にはメイドがいる。だが、別にこのカフェはメイドカフェというわけではない。なのに何故このカフェにはメイドがいるのか? その理由はこのカフェの制服が私服にエプロンを付けるといったものだから。…ある意味理由になっているようで理由になっていない理由である。だが、そういった理由でこのカフェにはメイドカフェではないのにメイドがいる。このカフェにいるメイドの名前は新藤亜希。彼女がこのカフェがメイドカフェでないのにメイドがいる理由である。 理由は単純。彼女がメイドの恰好が好きで、私服でもメイド服を着ているから。以上。 …普通ではありえないが、このカフェのオーナーの店主がいい意味でも悪い意味でも大雑把で寛容的なので、私服OK。なのでメイド服が私服ならメイド姿もOK。そんなとんでも理屈が成り立ち、メイドカフェじゃないのにメイドがいるカフェという現実が実現している。 「変なのはわかるけど、可愛いからいいんじゃね?」 とはオーナー兼店主の弁。そんな感じでいい意味でも悪い意味でも自由なカフェである。そして、そんなカフェだから良いという常連客がわいているので、このカフェは潰れずに現在に至っている。そして、幸村楓も良しとする客である。よって、何も問題ない。…とりあえずそんな感じである。 楓が空いていたカウンター席に座ると、メイドがおしぼりとお冷を置いてメニュー表を置いてカウンターの奥の厨房に戻っていく。いつもの光景である。…メイドカフェじゃないのに。 変ではある。でも、メイドの亜希がどんな人間か、楓はそれを知っている。なので、別に問題視はしない。だって、変で不器用だけど、このメイドはまっすぐで好感が持てるから。 楓はメニュー表を確認する。そして、カウンターの上につけられたボードに書かれた日替わりのメニューを確認する。そうすると、今日の日替わりのメイド料理ランチセットはハッシュドビーフセットとなっていた。 普通なら、なんだ、この日替わりメイド料理ランチセットは? 、である。普通の日替わりのカフェのランチメニューではないのかという疑問が普通は起こる。でも、楓は常連客で理解しているので、今日はこの日替わりメイド料理ランチセットを注文することにする。 「ハッシュドビーフセット一つ、お願い」 「楓、ありがとう。頑張って作るね」 メイドはそういって柔らかい笑顔を浮かべお礼を言って、準備を始めた。カウンター奥の厨房で。そのメイドの横で、このカフェのオーナー兼店主の奥村 伸二がのんびりと前の客の料理で使ったフライパンを洗いながら、毎度、といって笑っている。 そんな感じでこのカフェは良い意味でも悪い意味でもゆるい。生真面目ではない。でも、だからこそ、楓の注文した日替わりメイド料理ランチセットは成り立っている。そのゆるさが、良いと思う。だから、楓はこのカフェの常連客になっている。 出されたお冷で喉を潤しながら、カウンター越しに調理を開始したメイド―新藤亜希を眺めながら楓はぼんやりと頬杖をついた。ゆっくりと、お昼時の午後の時間が流れていく…。
コメントはまだありません