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 二人が初めて体の関係を持ったのは、入社式があった日の夜だった。本社で入社式や研修を受けた後、まりあは猛が勤める店の近くで彼と待ち合わせた。だが、時間になっても彼は来ない。しばらくすると、ショートメールが来た。 「ごめん、仕事でトラブっちゃってm(__)m しばらくかかりそう」  まりあは今までバイトしてきた店のことを懐かしく思い出しながら、 「分かった。近くのカフェで待ってるね☆」  とショートメールを打った。四月になったばかりの夕方の風は少々冷たくて、スーツ姿のまりあには外気が寒く感じられた。まりあは近くのカフェに駆け込み、コーヒーを注文した。夕方と言うこともあって、座席は学生や仕事帰りの会社員で混雑していたが、たまたま一席空いていたのでそこに座ることにした。学生の一団と四十代ぐらいの会社員風の男に挟まれたカウンター席の一角だった。スーツを着た学生たちは新入生と思わせるような初々しさを身にまとっていて、高校卒業したばかりなんだなとまりあに思わせてくれた。 「まだぁ~」  三十分ほど経ったところで、ショートメールを送った。待っている間に読んでいた本も、佳境を迎えようとしていた。今度は窓越しに歩いている人たちを観察する。 (あの高校生はどこの学校なんだろ? 制服かわいい) (あっちのサラリーマンはくたびれてるなあ。ああはなりたくないよね)  そうまりあが思っているうちに、 「ごめん、遅くなった。やっと、仕事が片付いたよ」  という言葉とともに、背後から猛が現れた。 「遅いって言いたいところだけど、仕方ないよね。待ってたんだよ」  まりあは嬉しそうに言うと、カフェを出ることにした。  2人で街中を歩き、レストランを探したが、金曜日ということもあって、どこも人でいっぱいだった。結局、カフェ近くのチェーンの中華料理屋に入った。まりあは味噌ラーメンを頼み、猛は担々麵を注文した。二人はその日にあったことやこれからのことを話した。 「配属はいつ発表になるの?」 「もう発表されたよ。私は津田沼店だって」 猛は腕を組みながら、 「津田沼かあ、ちょっと遠くなるなあ。住んでるの高円寺だろ?」 と話した。 「でも、住むところは今と変えないつもりだし、電車で一回乗り換えたら行けるから、大丈夫たよ。慣れるまで大変だけど」  まりあはあくまでも前向きだった。これも猛がいるからだった。猛の存在がなければ、津田沼という郊外に通うのも億劫に思われたかもしれない。  中華料理屋を後にすると、時刻は八時半を回っていた。 「今日よかったら、俺ん家来ない? まりあ、明日休みでしょ」 付き合って半年以上になるが、猛がまりあを家に誘ったのは初めてだった。お互いに忙しいこともあったし、タイミングを見計らって、 「いっぺん、外だけじゃなくて猛の家にも行きたいなあ」  などと言ってみたこともあったが、いつも猛は部屋が散らかっているからとか、理由を付けては断っていた。 (どういう心変わりなんだろう)  と訝しんでみるが、やはり嬉しさが勝り、 「うん、行きたい」  と言ってしまう。だが、まりあとしてもそれだけでは申し訳ないと思い、 「でも、猛君は仕事でしょ? 大丈夫?」  と心配してみる。 「俺は……大丈夫だよ!」  と猛は言った。きっと、強がっているんだなと思いつつも、それでさえもまりあの心をウキウキさせた。二人が手をつないで歩き、電車に乗って彼の家の最寄り駅まで向かう。慣れない電車に戸惑いながらも、まりあは吊革につかまりながら夢見心地だった。  最寄り駅に到着すると、二人は手をつないで猛の家まで歩いた。駅前の商店街を抜け、薄暗い街灯の下を通っていく。十分くらい歩いただろうか、七階建てのマンションが見えてきた。 「あのマンション?」  猛は無言で頷いた。そして、あたりを見まわして、まりあの肩を抱いた。よりグッと近い距離に収まったまりあと猛は、傍から見ても幸せそうに見えた。その状態のまま、マンションのエントランスホールに入り、エレベーターに乗り込む。猛は「6」のボタンを押した。二人はエレベーターの中で我慢できずにキスをした。途中で止まってしまうことなど考えずに、夢中だった。エレベーターが六階に到着した。さすがに、キスをやめて、部屋に向けて歩いて行く。まりあの胸の高鳴りは最高潮に達していた。  ある一室の前で猛は立ち止まった。鍵を鞄から探していると、まりあはじれったくなった。十秒くらい探して、ようやく鍵が見つかり、鍵を開ける。玄関に入るや否や、まりあは後ろから猛に抱きついた。猛がその勢いで前によろめきそうになった。 「何するんだよ、危ないだろ」  と言う猛の表情は、笑みを湛えていた。満面の笑みとはこのことだと言わんばかりの表情だった。 「ごめん、好きすぎてつい……」  まりあは舌を少し出してから言った。少し落ち着いた二人は靴を脱ぐと、明かりをつけて、部屋の廊下を歩いた。リビングの電灯が点くと、部屋の様子がうかがえた。こざっぱりとした部屋で、黒革のソファに、天板がガラス張りのテーブルがあり、至る所に本棚が置かれていた。そこには、文芸書からビジネス書、雑誌から漫画に至るまでさまざまな本や雑誌が並んでいた。その様子はまるで本屋みたいで、 (私よりも読書してるんだ。さすが書店員って感じ)  とまりあは思った。かと思うと、部屋に置かれたコルクボードには釣りに行った時であろう写真がいくつもあった。 「釣り行くの?」  まりあは尋ねた。キッチンの方から、猛の答える声が聞こえる。 「ああ、最近はたまにしか行けてないけどな」  彼は神奈川県の三浦半島の出身なので、実家に帰るついでに釣りに行くのだと語った。 「釣りか、何だか楽しそうだね。今度、連れて行ってよ」 「そうだな、機会があったらまりあを連れていくよ。実家にも寄りたいよな」  そう猛が言うと、まりあは頬を赤らめた。いきなり、”実家”というフレーズが出てくると、彼女の中では実家の彼の両親に挨拶する妄想が膨らんでいく。目の前には猛が差し出した缶ビールが置かれていた。 「それじゃ、まりあが無事に角善堂に入社したことを祝して、乾杯」  と言うと、二人は缶をぶつけた。  二人が缶ビールを飲み干す頃には募る話も尽きてきた。まりあは 「そろそろ、化粧落とさなきゃ」  と言い、洗面所に向かおうとした。しかし、猛はそんなまりあの手をつないで、話さなかった。すると、今度はまりあを引き寄せ、きつく抱きしめた。 「もう離さない」  猛が言うと、まりあも 「二度と離さないでね」  と言い、お互いに唇を求めた。唇を重ねると、まりあは押し倒されるように、ソファに横たわった。激しいキスを交わすと、今度は猛がまりあの服を一枚ずつ脱がせ、自らもパンツのみになった。下着姿になったまりあは 「もっと、もっと」  と言い、激しいキスを迫った。息遣いも荒くなってきた。そして、猛はまりあの胸を愛撫した。かと思うと、ブラジャーのホックを外して、床に放り投げた。興奮するまりあ。そして猛も下着を脱いで、さらにはまりあの下着も脱がせた。リビングから聞こえるまりあの喘ぎ声、そして…… つづく

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