死神たちのリバ☆ゲーム
ピュア・ホワイト・ナイチンゲール⑧

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 ルースに手を引かれ、『宇宙』の中を進んでいく。その光景はまるで、ピーターパンがウェンディを連れて飛ぶかのようだった。  もちろん、そんな風に空を飛んだことはない。しかし明らかに違うと予想できること、それは『飛んでいる』という感覚がほとんどないことだった。  体に当たる空気ではない重たい液体のようなものの感触と、俺を引くルースの手の感覚だけが、前へ進んでいるのだと俺に教えてくれている。 「これ、帰れるんだろうな?」  不安になって、ルースに尋ねてみる。 「もちろん。慣れれば、一人でも帰れるようになるよ」 「それって、今は一人じゃ帰れないって意味だよな」 「ははは、そうなるかな」  笑いごっちゃないだろ……  そうは思うのだが、ルースはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、妙に機嫌よく小鳥がさえずるように鼻歌を歌っていた。  続けて、この空間がどうなっているのかを尋ねたが、追々話すよと返ってくる。  追々とはいつのことやら……ため息交じりの独り言が口から出た、その直後、球状の雲のようなものが、何の予兆もなく、俺の目の前に現れた。  本当に、突然。ふっと湧いて出てきたように、だった。  この空間に入ってきたドアからここまでは、時間にすると一分にも満たなかっただろう。何をどう移動してここについたのか、皆目見当がつかない。 「さあ、どうぞ」  ルースの言葉に、俺は肩をすくめつつ、促されるまま中へと入る。というか、押し込まれるといった方が正しいかもしれない。  中に入るとがらんとした空間があるだけで、テーブルも椅子も無い、まさに『雲一つない』状態だった。  しかし、それはそれで全くと言っていいほど落ち着かない。宇宙ステーションで暮らす宇宙飛行士のほうがまだましのように思える。  ルースの支えがなくなると、俺の体が当てもなく漂い始めた。いや、俺が漂っているのか、それとも、俺の視界にいるルースがゆっくりと漂っているのか、重力の感覚がないだけに、判別がつかない。  ルースがはいている袴のようなもの――ワイドパンツよりもさらに裾が広がっていて、きっちりと襞が作られている――が、俺の目線に先に来た段階で、俺は腕や足を動かしてみることにした。  どう動かせばどの方向へ動くのか、色々やってみて確認するほうが早そうだ。 「すごいな、コノエは」 「何が?」  俺の動きは、絵面としては出来の悪い盆踊りにしか見えていないだろう。笑い所だと思うのだが、ルースは本当に感心している風だった。 「与えられた状況の解決策を、すぐに自分で見つけようとしているところが、だよ」 「そんなの、当たり前じゃないのか?」  俺の答えに、ルースはふふっと微笑みを返しただけで、それ以上言葉を返す様子はない。 「で、魂ってのはどうやって集めるんだ?」  何とか体をルースと正対できる位置まで持ってきたところで、俺はそう尋ねてみた。 「コノエがやる気になってくれて、ボクはうれしいよ」 「お前が誘ったんだろ」  と、ルースが俺の方に近づく。ゆっくりと右の人差し指を、俺の顔へと近づける。しかし俺はそれを避けることが出来ない。そのままルースの指が、俺の鼻にふれた。 「ルース。そう呼んでくれないかな」  湿り気のある囁き声。思わず息が詰まりそうになる。 「気が向いたらな」 「色々、信じてくれたかな」 「まあ、こんなもの見せられたらな」  俺の答えに、ルースがまたふふっと微笑んだ。  ルースは、そのまま俺の横に体を寄せると、自分の腕を俺の腕に回す。 「簡単だよ。死にゆく者を見つけて、魂を連れてくるだけでいいんだ」 「か、簡単って、ど、どうやって連れてくるんだ?」  ルースのこの行動に一体どんな意味があるのだろうか。全くもって、ひどい。振られたばかりの身にはかなりクリティカルな攻撃だ。 「魂が肉体から出てくるのを待って、消えないうちに呼びかければいいんだよ。おいで、って」  絡んだ腕が気になって、ああそう、という素っ気ない返事しか口から出なかったが、ふとルースが話した状況を頭にイメージしてみると、途端にある有名な写真が脳裏によぎった。  飢えに倒れている少女の傍で、じっと死を待つハゲワシの写真…… 「って、ちょっと待て。いや、ごめん、無理。ってか、それじゃどうみても、死神だろ」  ルースはゆらゆらと動きが定まらない俺の体を安定させるように、俺の腕を抱えていた。そのルースの腕に少し力が入る。 「そうじゃ……そうじゃ、ないんだ、コノエ」  少し曇った表情を隠すように、ルースは軽くうつむいた。

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